第61話 脱出方法
黒いトレンチコートとマシンピストルを持った悪人がいきなり路地から飛び出し、グンルに銃口を向ける。密輸人コアーズカルフはモーンガルドにて着服していた、潜界存在にのみ使用を許された〈虚数刃〉を使い、〈迂回路〉を経由しそいつを刺殺した。だが彼の宿敵であるはずの〈棺桶運び〉のエージェントが山高帽の下に隠していたのは、コアーズカルフと瓜二つの顔――否、そいつは、彼だった。じゃあ今こいつを刺殺したはずの自分は誰なのだろうとコアーズカルフは思うが、もちろんそいつと同一人物なので心臓を既に貫かれ死んでいる。だが、死んでいるということは〈虚数刃〉を使うこともなかったので、心臓は貫かれなかった。つまり彼はまだ生きている。そのことを喜び人々は花弁や米粒、泥や臓物を投げ合って祝福をした。
といった一連の流れが一秒の半分程度でグンルの視界内で巻き起こった。
「どうした? 今まさに、何かを幻視しているのか?」
エビングハウスがそう尋ねたので、グンルは見たものを説明した。
「あんたが何を言っているのか、おれには分からない。だが竜塵をやった状態で、昨日見た夢を話すゴロツキが前にいた、そいつよりは理論的と言えるだろう。それで、あんたはおれのことを覚えているのか、それとも覚えていないのか?」
グンルは正直に、覚えていない、と答えた後、だけどコンスタンスフェアにいた頃に会ったような気もする、と付け加えた。
「豪商帝の市、か。確かバカンの東方にある都市だったか? だが、おれは西の大陸に行ったことは――あったのかも知れんな。これも〈忘却の亜神〉の思し召しか。分かった」
何が分かったというのだろうか。
「おれは西へ向かうことにする。道を示してくれた礼として、この街から出る方法を教える」
ここからは通常の手段では出られないということか。
「そうだ。誰もがこの都市から出るには〈キルケの濠〉を通過しなければならないと思い込んでいるが、それは嘘だ。〈アメリア・シルキー〉の後を追え。そうしなければならない。おれはやりのこした仕事を片付けてから行く。縁があればまた会おう」
エビングハウスは座員になりはしなかった。目的地と、そこに向かう意思がはっきりしている者は、放浪することができない。




