第54話 森林の探索
砂漠の向こうに突如として大樹林が出現した。ある地点を境目に、そこからは異様に巨大な木々が立ち並び、一気に湿度が上昇する。レームはヴェント南部の雨林に似ていると評する。知らぬ間に南下していたのだろうか?
存在しないものがそこにある、この解釈についてドルシネアが何か言おうとした。彼女は魔眼の力で、適当にものごとを現実に定着させてしまう。それに先んじてアーロンが口を開いた。
「転移という線も捨てきれないけど、これは恐らく誰かの見ている幻覚だ。その人物に干渉すれば脱出することもできるかも知れない。もちろん、あなたはこのまま森の奥深くまで探索することもできる」
座員か自分が幻覚を見ているという可能性はないのだろうか。
「座員やグンルは自覚症状がある」今度こそドルシネアが解説をする。「少なくともじっと凝視すればそうと分かる……この森はそうではない、幻視者は近くにいる」
足元はぬかるんでいるがグンルは全く気にせずに進んでいく。様々な生物がいる。極彩色の鳥の群れや、じっと見て来るだけの虎、バカン王国にいそうな集団で気障ったらしい会話をする集団、やってもいないことの責任を追及してくる木の実。しばらく進むと、ブドウの蔓が絡まった木の前に、意思疎通ができる人物がいた。
オークの女戦士だった。かつて、エルフの国シュマールから派兵された部族が、ファルクシア島の迷宮で変異したのが、この精強な種族の始まりだ。灰色の肌と鋭い牙、屈強な肉体が特徴で、例外なく強力な魔術師でもある。古代ファルクシア王国を滅ぼした伝説上の、猪の頭を持つ醜い怪物の名をとって呼ばれているが、彼ら自身は〈果ての軍〉という部族名を自称している。
戦士は一睨みしただけで竜ですら射止めてしまえそうに思えた。
「この地に何の用だ? ここには何もないぞ、旅人よ」
別に用があって来たわけではない、とグンルは答える。ここは何者かが見ている幻覚の中で、脱出する方法を探している。無理ならしばらく滞在するかも知れない。そんな説明を聞いて、戦士は興味がなさそうに頷く。
「それは初耳だ。だが、わたしは幻覚など見ていない。原因を探すなら他を当たることだな」
グンルはそうすることにした。この戦士や他の人々も、ある場所にずっと立っていたり座っていたりして、そこから動こうとはしなかった。彼らは一様に、この森から出ようとしていないばかりか、食事や睡眠をすら必要としていないのではないかと思わせた。




