第53話 連鎖する幻
そのまま大塩路を進むと、同じような騎士たちが何度か現れ、彼らには大抵アンデッドも混じっていた。近くに屍術師の根城となっている迷宮があり、そこから流れてきて取り込まれたのだろうとアスフォデルは言った。
人造聖剣の持ち主はジラソーレというエルフの騎士で、彼とグンルの魔剣でアンデッドはすぐに片付けることができた。座員となった騎士たちの中で最も活躍したのはラオディケで、塩の袋を執拗に高速で振り下ろすことによって、強引に敵方を片付けていた。相変わらず騎士たちは一言も喋らなかった。
大塩路を一週間か二週間くらいかけて進んだが、実際は一か月だったかも知れないし、もっと短いような気もした。時間の感覚もどうも狂い始めているようだった。太陽が沈むのがやけに早い日もあったし、夜がずいぶんと長い日もあった。座員たちや姿の見えぬ座長が相変わらず囁いていたが、その意味が分からないことも増え始めた。アーロンやカルネアデスもまた、彼らが見ている幻影について話し出した。しかも、それらの幻もまた、幻覚を見ているらしかった。例えばカルネアデスは六人の肉屋がずっと砂漠をうろついて、そこいらにいる魔物を解体して天から釣り下がるフックにぶら下げていると言った。その肉屋たちが言うには、〈懲罰機〉という魔物が自分たちを責め立てるので苦痛から逃れるために肉を解体し続けなければいけないとのことだった。
カリナの都の宿で北へ行けと呼びかけた、聞き覚えのある声はもう聞こえはしなかったが、グンルはそれを再び聞こうとして瞑想を続けている。敵が肉薄しているときも突発的に路面に腰掛けて目を瞑った。するとあの声ではなく、肉屋たちの嘆きがグンルにも聞こえた。七人の肉屋は確かに苦しんでいる。懲罰機は〈恐喝者ギルド〉からの刺客だ。このギルドを率いているのは、聖バルガスことバルガス・アッシェンクロークの子孫を称する〈渇き目〉の男だ……グンルは目を開き、立ち上がるとまたアンデッドを浄化し始める。それでもまだ、座員が見た幻覚はそこにいるままだ。つまり肉屋七人と懲罰機と〈渇き目〉、更に彼が見る〈幽玄の都〉もまた歩いて二分の所に現れている。肉屋の内一人が解体包丁でゾンビの頭を割った。〈幽玄の都〉からその住民が見ている幻影が流れ出る。それにグンルが目を奪われ、再び時間経過は曖昧になる。一つ目の月が光っている。それに呼応するかのように綴り手ドルシネアの左目もまた輝き、何らかの幻影にひとつの事実が定着させられた。
大塩路の果てには海などなかった。




