第46話 盗品商アスフォデル
「ところで、このわたしが既に幻影だとするなら、本物のわたしはどこに行ったというのだ?」
アスフォデルの問いに対しドルシネアが、もしかするとまだこの部屋の中にいるかも知れないけど、我々には認識できないし、この宿自体がグンルの見ている幻かも知れない、あるいはこのカリナ自体が……などと言いだす。彼女が何か考えて喋っているのかは怪しいところだったが、荒唐無稽だとしても発言内容は、その左目が現実に反映させる。ただ、どうやらそうした書き換えが発生するのは、グンルにとって真実がどうなのか確かめられないか、そうする気が起きない事象に関する場合に限定されるらしかった。
「では今後、わたしは基本的に戦闘には加わらないが、助言はしよう。ああ、だが一応我が異能・装備については説明しておくべきだろうな、軍機というほどでもない、むしろ誇示するところだ。
まず、我が名はアスフォデル、不死となる前は〈デスピナ砦のオベロン〉と名乗っていた。市神アシュウに発行された手形にて、死や恐怖、苦痛を含む多数を売り渡したがために、わたしは不死となった」
「アシュウ? あれはブラニア教会が商売繁盛グッズを売るために作り出した、架空の神じゃあないのか……?」その低い囁き声の幻聴はコアーズカルフのもののようだったが、カルネアデスか他の誰かの声も混じっているようだ。
「アシュウが、通説の通りブラニアによって神に引き上げられた人間であっても、商売のために作られたキャラクターであっても――それもまた、かの神にごく相応しいと思うが――わたしが持つ祝福は本物だ。誰にも知られることなく物品を、フレイム通貨か魔石か食料かに交換できる。
他者の死や恐怖などといった概念までは売り払うことはできないが――それが非常に上質なものであれば、例外的に買い取ってくれるそうだが――そうでなければ盗品であっても関係ないし、肉体の一部であっても構わない。その気になればわたしは、この力を駆使し迷宮に潜り続けることができるというわけだ、〈深淵住まい〉としてはかなり稚拙な力ではあるがな」
次にアスフォデルは不死というものについての説明を始めた。グンルも一種の不死者であるために、その先達としての助言のつもりだった。
「不死にはいろいろなタイプがあるが……君は生が〈固定〉されている種類のようだな、あるいは、モーガン団長と同じく、死んだという事実が書き換えられるか。いずれにしろ、不死と言っても絶対ではないことを認識しておくべきだな」
グンルが持つ〈墓荒らしのケペシュ〉を始めとして、不死性を解除する手段は色々とある。強大な力を持つ魔物がそれをなすこともあるし、現にアスフォデルも、団長から支給された武器によってそれは可能になると発言した。
さらに重要な点は、不死者の大半は、その種族の寿命の二倍から三倍程度を生きると死を迎えるということだ。肉体ではなく、その生きる意志が損なわれるためだ。不死となると、苦痛に対して鈍感になってゆくが、それでも永遠を耐えられる者は少ない。




