第44話 勧誘
宿の二階に上がり、不死の傭兵が泊っている部屋をノックする。その人物は〈アスフォデル〉という名前だった。スワロウテイルの知識によれば、それは不死の力を得たエルフが名乗る纏名だという。
「開いている、入りたまえ」落ち着いているが力強い声だ。彼が言うままにグンルはドアを開ける。
あたかも来訪者を予見していたかのように、アスフォデルは入り口に向かい合う形で椅子に座っていた。身に付けている鎧は魔物の鱗を使用したもので、兵団のトレードマークだ――彼らはそれを、自らが狩った竜のものだと嘯いているが真偽は不明――腰には黒いレイピアと銃を装備し、顔は巻き付けた布でうかがい知ることはできない。室内というのに明らかに不自然だが、髪を伸ばし放題にして身を包んでいるグンルや、紙片で顔面を覆いつくされたレームも似たようなものだろう。
グンルはまず、突然の来訪を詫び、本題に入ろうとしたところでアスフォデルの方から短い問いかけがあった。
「本業か副業か、どちらだ?」
本業とは言うまでもなく傭兵業だろうが、副業とは何だろうか。グンルが黙っていると、
「そうか、君はわたしの副業が何か知らずに来たのか? 大きな声では言えないことだが、元々わたしは盗品商なのだ。そう、〈盗品商〉兼〈剣士〉というわけだな」これは彼一流のお決まりの冗談らしく、覆いの中から低い笑い声が聞こえた。
グンルは彼に、自分の身の上を素直に話すことにした。迷宮病の症状で幻覚・幻聴があり、現実から乖離した〈フュルギア一座〉なる潜界存在の随伴者たちと放浪を続けている。それはマルゴル神に定められた〈最果てへの途路〉を辿る使命によるものである。モーンガルドの迷宮都市カーヴドソードをさまよっていたら、強力な魔獣に敗れ、それはどうにかなったが、ここに転移した。あの魔獣くらいは簡単に倒せる協力者が欲しいので、名高い不死兵団の一員を一座に加えたく思った。
「要するに君は」話を聞き終えたアスフォデルが言った。「わたしを洗脳したいというわけか?」
そうではなく、もしあなたが自分に従ってくれたら、という都合のいい仮定を幻影として継続的に見るだけだ。それは自分が見ている他の幻覚にも影響を及ぼし、それらを現実と思い込むのだ。
【アスフォデルを一座に加える許可を出す】と、座長の声が宣告した。彼の加入は確実と思われたが、
「現実のわたしに何らの影響もないとしても、わたしは不死兵団のモーガン団長の指揮下にある。君の放浪に同行することはできない」




