第43話 傷跡の追跡
「さあ、ここだけの品だ! あの偉大なる時術師シャーザマーンの高弟、〈篩の魔女〉が作り上げた魔法具! こちらは九大迷宮の一つ〈アルニラム交差路〉にて発掘されたばかりの財宝だよ! そして今日の目玉商品! 聖エレノアが使ったという香炉! これさえあればどんな呪いでも――」
商人のこの上なく胡散臭い口上を聞き流し、露天街をすり抜けてミノタウロスの像に向かう。公社に併設された酒場に入ると、グンルは赤ドロと〈迷宮守りのシチュー〉――人造肉と迷宮芋からなる安上がりな食事――を注文し、それらの味が東の地でも変わらないことを確認した。ワインを口に運び、幻味が広がるのを楽しむ。酒を飲むと新しい幻覚が見えるようになった。原色の鳥の群れが、壁を突き抜けて室内を横切っていく。人々が実体と幻影の二つに分かれ、別々の方角へ歩き去る。天井がいつしか消失し、覗き込む何かの姿が現れる。
グンルは幻聴か現実のものか分からない、客たちの話を聞く。九大家のひとつシェン家がまた、彼らの保有する迷宮の探索を一歩進めたようだ。外から家中に加えた、おかしな吸血鬼の迷宮守りが大いに活躍しているという。
北部で魔物が迷宮から流出した。滅多に起こることではないとされているが、世界には迷宮都市が無数にあり、そのどこかでは今日も発生している。予兆を察知していた国軍が鎮圧したという。
「世界中に危難を予知し、あらかじめそれに備える人物・団体が存在している。そういった効果が得られる迷宮もある」ルネッタの声が言った。「最大手はソラーリオの〈天啓機関〉だろう。歴代の〈晴眼の巫女〉様は世界の破滅を何度となく予知し、それを防いで来たのだ」
世界全体に波及するような危険因子は、流刑地であるアウル島送りにされる。あの島ではあらゆる魔術や奇跡、迷宮病さえも無効化され、不可思議なことなど一つも発生せず、誰も世界を脅かすことはできない。最も安全だが、決して出ることは叶わない牢獄だ。
食事を終えたグンルは周囲の人々に聞き込みをした。不死兵団の傭兵がこの街に来てはいないかと。どうやら、隣の地区に今朝がた入った兵士がいたらしい。そちらに向かうことにした。
午後になり、日が傾くころにその人物が泊っているという宿に到達できた。追跡にはルネッタが〈頭目〉から得た祈祷術が役に立った。彼女が追跡した特異的な魂魄の香り――それは一度でも蘇った者からは二度と消えない傷が放つものだ。




