第42話 カリナの都
何事もなく、とは言い難いが、最寄りの迷宮都市まで到達することができた。この地はカリナ伯国という、帝国西部の小国だ。構成国の中でも比較的安全だということだが、当然モーンガルドの下級迷宮守りなどが足を踏み入れればすぐに餌食となるだろうし、イーグロンの迷宮から転移させられて実際にそうなる者が数多くいる。
旧帝国初期の皇帝が行ったような遠征・平定を経ずに成立した新帝国では、各地域の自治権が強い。国教スゥレ僧院や士族階級であるラバイ人、騎士団や傭兵団、大商会、過去の〈勇者〉の子孫、半ば盗賊のような豪族、大成した迷宮守りの徒党までもが領土と迷宮を保有し、各地を治めている。
カリナの都はそこだけが繁茂した草木に覆われ、街全体が湖を濠としてその只中の島に建っていた。イーグロンとはまさに異世界のように、空気自体が違う。乾き、香辛料と、甘い果物のような魔物避けの香の匂いが漂っている。軍人や貴族のみならず、迷宮守りや旅人、物乞いまでもが堂々と自信に満ちて闊歩しているように見えた。
魔術的な結界の効果らしく都市の内部は涼しく、空気も澄んでいたが、多くの人々は砂嵐や日光を避けるためか、布や仮面などで顔を隠している。もしくは、他に何らか魔除けとしての役割があるか、慣習なのかも知れなかった。
市場は見たことがない食べ物や武具が山のように積まれている。鱗馬ではなく、長い毛のずんぐりとした一角獣が輓獣として利用されているようで、そこいらを我が物顔で横切っている。
まずは件の〈不死兵団〉の一員を発見し、会談したいところだ。彼らは金色の鱗鎧を身に付けているらしく、それは彼ら自身が打ち倒した竜から剥ぎ取ったものと自称している。
こういう場合は、まず迷宮公社に行くのが定番だ。グンルは道を聞くため、緑色の瓜のようなものを山積みにしている屋台へ近づいた。店主は鉄仮面を付けているエルフの商人だ。恐らく一般的な甲冑と同じく、中の温度を適切に保ち、自動的に換気を行うような魔術が付与されているはずだ。
それは瓜かとグンルは尋ねる。
「これは瓜じゃなく〈甘露玉〉っていう果物ですわ。甘くて瑞々しい、この辺りの迷宮の名産品です」
一つ求めて齧ってみると、林檎とヨーグルトを混ぜたような風味で、果汁は口中に溢れるほど多い。それを食べ終えるとグンルはもう一つ買い、迷宮公社の場所を尋ねた。




