第39話 葬送魔獣
廊下に結構な量の血を垂らしながらルネッタは進む。彼女は見た所は平然と走っているが、いきなりぶっ倒れたりするのだろうか。そうしたら自分がその何とかの牙と何とか刃を拾い上げて代わりに密輸しなければいけないのだろうか、とグンルは思いながら後を追う。
考えてみればカーヴドソードを放浪し始めて、生命が危機に陥るほどの戦闘は初めてかも知れない。だが、グンルは危機感を覚えてはいなかったし、息を乱すことすらなかった。自分が固定された存在であると自覚していたからだ。〈最果てへの途路〉を辿る存在として放浪をやめることはできず、誰かがやめさせることもできない。死さえもだ。それに、この空間は――
「グンル殿、わたくしの出番ではありませぬか」レームの声がした。確かに、現在の座員の中では、ヴェント騎士の彼女が最も戦闘に適しているかも知れない。
返事をする前に、棺桶を背負った黒い大きな犬型の魔獣が出現した。ルネッタが、こいつは悪魔の一種だと叫ぶ。〈棺桶運び〉が切り札として用意していたものだろうか。
レームのみならず、今揃っている座員全員で対処しなければならないと判断したグンルが召集をかけると、〈潜界存在〉たる断片が降り注ぎ、アーロン・アンダースを始めとする戦士たちが現出した。それぞれの武器をもって魔獣を攻撃する。床の穴から出たスワロウテイルの手が魔導カービンを放ち、相手の顔面に直撃するが効いた様子はない。レームの〈天火〉が魔獣の首に食い込むが、半ばで分厚い筋肉に止められた。迷宮の生物に有効なはずの魔剣を受けても、大して弱ったように見えない。武器のないドルシネアは煉瓦を手にして闇雲に突っ込んでいったが、すぐさま弾き飛ばされて倒れ込んだ。
グンルもまたケペシュを振りかざして向かっていくが、もちろん相手はアンデッドではないので単なる剣としての役割しか果たさない。格上の敵にあまりにも無謀な攻撃だった。座員たちとともに、魔獣の体当たりで石ころのように弾き飛ばされた。
その一撃によって手足は折れ、内臓も損傷したらしく大量に吐血し倒れ込むが、グンルはあまり痛みを感じておらず、恐怖もなかった。なぜなら、この建物も〈棺桶運び〉も、眼前の魔獣もすべて自分の幻覚だからだ。明晰夢のようなもので、しかもここは寄り道のようなもので、真面目に取り組む必要のない戦闘だと思っている。座員たちもそれを理解しており、決死の表情で戦っているが、酒宴で同席者の悪乗りに付き合うようにして、数秒後に訪れる終わりを漫然と待っているのだ、そうに違いない。
その始末はやはり自分がつけなければいけないとグンルは考えた。




