第38話 棺桶運び
密輸というからには、非合法、あるいは少なくとも、社会通念上望ましからぬ品物を運ばなければならないはずだ。
「そうだ……ブツはすでに確保したし、買い取ってくれる相手とも話はつけた。〈幻影獣〉の牙と〈虚数刃〉、この二つだ。王国法ではどちらも単純所持が禁止されている。それを買い取ってくれる相手は、このマンションの地下にいる。新入り、お前の初仕事はオレの護衛だ」
その二つの代物も禁止法も、取引相手さえもコアーズカルフの頭の中にのみあるものではないのだろうか。だが、彼に付き合うことにした。アタッシュケースではなく頭蓋の内部にいれて持ち運んでいると考えればいい。押収される心配もないし、ちょっとした散歩兼ルネッタの戦闘テストと思うことにした。
「いいだろう、我が力をここで誇示し、我の一座内での立場を高めようではないか」
ルネッタはやる気を見せたが、彼女も一座も非現実の幻影に過ぎないので高めても意味があるとは思えなかったが、意欲を削ぐのも良くないのでグンルは黙っていた。
「コアーズカルフ、貴公は武器を持っているのか?」
ルネッタに聞かれて彼は、弾丸の装填されていない銃を見せる。
「ああ、弾がなきゃしょうがないって……? 何を言っている、弾丸をこめた銃じゃオレの敵は撃てやしないんだ、あの極悪カルテル〈棺桶運び〉……あの煙たい店〈酔いどれ猪〉亭でオレを張ってたのも奴らさ……あらかじめ相手の死体を収納するための棺桶を持参する、律儀な奴らだ……現実の隙間にいるからな。気を引き締めろ、ルネッタ」
どうやら幻視者が見ている幻覚たるこの密輸人もまた、自前の幻覚を見ているようだ。
クラゲの泳ぐ部屋を出て階段を降りているといきなり黒いトレンチコートを着た見るからに悪党といった奴らが二人躍り出て、短機関銃を乱射する。バカンにいたころ発生した盗賊ギルドの抗争じみた光景だ。ルネッタは素早く跳躍し、一人を吹き飛ばした。グンルは魔石の触媒から射撃の術を放ち迎撃する。しかしコアーズカルフはまともに銃弾を浴びて倒れている、恐らく即死。
ルネッタも被弾しつつ残った刺客を仕留めたようだ。彼らが運んで来たらしい棺桶が台車に積まれている。誰がこれを掃除するのか知らないが、その際に役立つことだろう。ドルシネアが言ったことが真実なら、コアーズカルフはたぶんそのうち復活するはずだが、いつになるか分からない。ルネッタは〈棺桶運び〉から手早く機関銃を奪い――追い剥ぎが早くも板についている――階下に進む。
「密輸品は我が拝借した。相手は運び手が誰であろうとも構いはしないだろう」とルネッタは言う。その見えない代物をどうやってコアーズカルフの亡骸から入手したのかは分からないが、とにかく密輸人が取引相手の所まで行けば密輸になるはずだ。




