第35話 ダグローラ諸宗派
ダグローラ正統教会の信徒たちは、敬虔な信徒の顔をしつつ内心バカンの商人たちのようにドライに割り切った態度で、神が望む行動を取り、その恩恵にあずかっている。
国外の主な宗派として、〈審問会〉と〈教導派〉があり、前者は今でもぶっそうなイメージを持たれているが、やることといえば押し売りだけである。道行く人を異端者と断定し「この贖宥状を買うことでその罪を浄化できる」と言って売りつけようとする迷惑な集団だ。この異端審問によって彼らは祝福の力を得て、迷宮守りや傭兵といった副業に役立てている。
彼らが販売するアイテムは、弱い効果ではあるがアンデッドに対する安価な対抗策になり得るので、買う側もメリットがないわけではない。
〈教導派〉は、ソラーリオ国内で用いられている迷宮守りたちの戦術を伝授し、迷宮探索者が犬死にしないように努めている。彼らによればソラーリオ以外では、迷宮に対する恐れを薄めるように迷宮自体による心理操作が行われ、そのために大半の探索者は無謀な行動を取り、死亡率を高める要因となっているのだそうだ。
どちらの派閥も本国の教会からすれば教義の一部のみを切り取った半端者たちだが、迷宮探索の役には立つ面もあり、黙認されているそうだ。その他、放浪を通して太陽神の教えを体得する〈蒼穹派〉や、治療や児童への教育、冠婚葬祭を受け持つ各地区の教会など多数の分派もあり、えてして一枚岩ではない。ルネッタはごく他人事のような顔で、それらについて説明してくれた。
食事を終え、三人が店を出ると奇妙なことに、薄暗い街の通りは水浸しになっている。足首ほどまで温い水が溜まっている。
「どうやら〈塩水童子〉の仕業のようだ。我が奴を見つけ、討伐してやろうではないか」そう宣言するとルネッタは突如、四つ足で這うポーズを取った。「〈頭目〉よ、我に鋭き眼を貸し与えたまえ」
そのままざぶざぶと水しぶきを上げながら進んでいく。グンルも彼女の後を追う。
ルネッタは〈祈祷師〉だ。何らかの上位存在と契約を交わし、恩恵を得る。ダグローラを始めとする神々との違いは、それが大勢に信仰されているかどうかだ。祈祷師たちは個人かごく少数の集団のみが認識できる相手を信仰する。それはグンルに力を貸す〈フュルギア一座〉にも近しいものだ。
〈塩水童子〉という魔物は温い海水を召喚する性質を持っているようだ。ルネッタが契約している〈頭目〉なる存在は、探知・追跡向きの力を彼女に与えている。この大陸で最も信仰が盛んなダグローラから異端者とされて改修したために、その落差でさらに強力な力を得ているとルネッタは言ったが真偽は不明だ。




