第31話 護衛任務
カルネアデスは密輸人の問いに対して答える。やはり贋作を抱え込む側としては、本物が二つあるのは都合が悪く、本物は一つで、それを自分が持っているというほうがいい。
コアーズカルフは頷き、今回運ぶのはまさにそういった素晴らしい贋作だ、と言う。酒場の薄暗い魔力灯の下、グンルは、彼の上着に猫の毛らしきものがいくつも付着しているのが気になった。かといって今、手を伸ばして掃うわけにもいかない。目の前にある自分のグラスに手を伸ばし、中身が何かも知らずに飲む。例の幻味が襲ってくる。周囲は煙草の煙が濃すぎて他の客は幽霊みたいに曖昧な姿だ。
「立入禁止の迷宮というやつがある……つまり、重要度が高い迷宮、それから危険すぎる迷宮だ……」
迷宮の質と数はそのまま国力に繋がる。だから、重要なものは軍の迷宮駐屯部隊が管理し、程度の低いものの探索は、公社を通して民間に下請けされている。重要な迷宮となれば、上級・特級の迷宮守りはその限りではないが、モーンガルドに数多くいる労働者たちは門前払いだ。しかし、中には無許可でそうした迷宮に忍び込む〈盗掘屋〉もいる。
「その迷宮は」コアーズカルフが囁くように言う。「〈贋作工房〉と呼ばれている。本当は別な正式名称があるが……オレたちはそう呼んでいる。そこに持ち込んだ品物の複製が、勝手に生み出される……さっき言ったような、本物よりも本物らしい代物がな……今回、そこで生まれたのは本だ……数の少ない、希少品だ。オレは詳しく知らないが、歴史的に大きな意味を持つものらしい……オレは二つ下の階層に、それを運ぶわけだが、そこまでの護衛を頼めるか……?」
カルネアデスが内心面白く思っていないのをグンルは理解する。もちろんコアーズカルフは、それを本物と言って高く売るのだ、そうした行為をこの、盗賊の女神に祝福を受けた人物は良しとしない。そして、それに加えてこの密輸人は、何か嘘をついているようだとカルネアデスがグンルにだけ聞こえる声で言った。
だがグンルは、護衛を引き受ける、と告げた。この依頼をこなせば、この密輸人を座員として加えることができる。放浪の旅では、いかにも盗賊然としているが善人たるカルネアデスとは違う、いかがわしいならず者が頼りになる場面がきっとあるはずだ。
店内に何かが飛んでいる。鳥らしいが、それもまた煙のヴェールの向こう側で、はっきりとは見えない。煙突じみた客たちが更なる紫煙を吐き出す中、グンルは密輸人と共に店を出る。
下へ行くには昇降機を使う必要がある。階層間の移動の際は、警備兵が待ち構えている門を通らなければいけない。グンルたちを担当したのは、ドヴェルにしては大柄な、強面の戦士じみた人物だ。
「止まれ。貴様ら、荷物を見せてもらうぞ」
バカンならば賄賂を支払うべき場面だ、あの国では様々なシチュエーションごとに、袖の下を支払う手順が決まっている。官憲からの目こぼしを期待するならば、「もうじき夕立が降りそうですね」とか「雷が鳴っていますね」など悪天候に関する話を振ったあとに――
「ああ……手短に頼むぜ」コアーズカルフは堂々と鞄を差し出す。




