第29話 破砕
赤い布で顔を隠した悪党二人がカルネアデスの所にやって来た。片方は脇に犬を抱えている。今しがた盗んできたものらしい。だが、どうも厳密に言うと犬ではないような気がした。目も口も鼻もない。背中は甲羅で覆われている。全身から緑色のどろどろした液体が滴っていて、悪党の体もそれに塗れつつある。
「あんたなんだろ? お頭が、なんかあったら助けてくれるように手配してるって言っていたぜ。保釈金をあんたに預けてたのか? それとも何か、有力なコネでも持っているっていうのか?」
カルネアデスが何も言わないで立っているので、悪党たちは不審そうに「何とか言ってくれよ」と詰め寄るが、すぐに警備兵によって羽交い絞めにされた。
「グンル、今起きたことを、あなたは客観的に見ることは既に叶わぬだろうが、また一つの深化を果たしたと【言える、最果てへの探索の進行を意味しているのだ】」
そんな声がした。喜びを含む、アーロンのものだったが、途中から誰のものか分からなくなった。見ると、それが誰かも判別できなかった。アーロンや、他の座員の姿をガラスのように粉々に破砕した、その断片が混じり合っているような像だ。断片の割合はアーロンが多いように思われたが、声はひび割れ、くぐもっている。
「現実を幻に、幻を現実に取り込むことがわずかに叶ったんだ。座員たちとあなた、周囲の世界が攪拌されつつある。もっとフュルギアの人数を増やせば、〈最果てへの途路〉はさらに開けるだろう」
断片が再び集まり、アーロンの姿となった。確かに冷静に考えると、喫茶店でカルネアデスが話しかけた警備兵も幻影のはずだ。先ほどの悪党二人もそうだろうか? あるいは、カルネアデスが一時的に実体化したのか。だが、ドルシネアの話では、幻影が何かしている場合、実際はグンルが代わりにやっているということだったが――
事実が曖昧になり、グンルは考えることに興味を失った。とにかく、今までと変わらず放浪を続け、誰かを一座に加えることを繰り返せばいいらしい。状況はよくなってきている。スワロウテイルを加えたことにより、少なくとも彼女が供給する食料で餓死はせずに済むようになった。
ガンマンたちが路上で獲物に向かって発砲している。切り離された尻尾だ。丸太のように太いそれは、先端から切断部にかけての、緑色からオレンジへの鮮やかなグラデーションが目を引く。だが狂暴だ。のたうち回るそれに吹き飛ばされて、負傷者が何人も出ている。銃もあまり効いている様子はない。グンルを含めた何人かが、それを遠巻きに眺めている。雨――天蓋からの排水――が降って来たので、見物人たちは酒場に移動し始めた。




