第26話 行方不明者
夕暮れの街を今日の宿を探して歩いていると、とある曲がり角で妙な集団に出くわした。鳥の紋章が描かれた、白いサーコートを身に付けた兵たちだ。彼らのことは知っている。バカンの〈ロックモート〉という都市を本拠地とする傭兵団〈白き翼の旅団〉だ。
「そこな御方、貴公はドヴェルか?」重々しく老剣士がそう尋ねる。グンルはそうだと答える。「女性であるな?」首肯する。
「見よ、見事的中よ。我が神通力のなせる業である」
どうやら彼らは、次に通りかかるのがどういった人物かという賭けをしていたようだ。
「何言ってんだよ、とっつぁん! ずっとドヴェルの女に賭けてりゃ、いつかは当たるに決まってんだろ!」
「違う、彼女が来ることは分かっていたのだ。貴公こそ、〈黄色い帽子と緑色の上衣を纏ったオークの老爺〉なぞに賭けおって。そんな者が現れるはずがなかろう」
「俺だって見えてんだよ。なあ」
分の悪い賭けをしたエルフの兵士が周囲の仲間にそう言うと、
「お前負け越しだろ、何が見えてるってんだ」
「人間の酔っ払いに賭けろって! さっきから泥酔者ばっかりだぜ、オーマにかけて、あたしの勝ちは揺ぎ無ぇ」
「そんなの当たって当然だろ、つまんねぇ奴だな!」と囃し立てる。彼らもまた結構な量の酒を飲んでいるようだった。その種族と素性を当てる賭けはなんのためにやっているのか、とグンルが聞くと、
「ちょっとした問題があり、それについての対処をどうするかで割れているのだ。この近くの迷宮を探索中に行方不明になった奴がいて――たぶんもう死んでると思うが――助けに行くかどうかを決めなきゃならん。そのために、つまらん賭けを用いているのだ。
私はもう見捨てていいと思うが、彼女は最新式の魔力カービンと手付かずの兵糧を持ってたから、回収すべきって者が結構いてな。誰かへの贈り物として置いておけばいいものを。迷宮の死体はあさるためにあるのだから」
「勿体ねぇだろうが。見てろ、〈黄色い帽子と緑色の上衣を纏ったオークの老爺〉が今に来て、今までの負けをひっくり返す。そうすりゃ奴の銃は俺のもんだ」
「既にゾンビに喰われているだろうよ。あんなアンデッドだらけの臭い場所なんざ、もう行くもんか」
グンルにとってはどうでもよいことだが、この賭けのルールが酔っ払いの制作物らしく極めていいかげんなのが気になった。どうも各々の匙加減で勝敗が決まるらしい。誰も記録している様子もない。
「ワタシが胴元ならしっかりと記載するのだけれど……たぶん最初から、その行方不明者を見捨てるつもり」グンルの隣に現れたドルシネアが言い、次にカルネアデスに変わる。「この野郎どもは迷宮に取り込まれた存在だからな。レーム姐さんと同じくらいに倫理観がどうかしてやがるのさ」
〈白き翼の旅団〉はかつて本拠地であるロックモートに囚われ、その構成物となった。その時点で人族からは逸脱した。こうして他の場所に遠征している者たちも変わりなく、素行不良が目立つものだ。その分、恐れもなく金のぶんは戦ってくれるのだが。
「なんだドヴェル女、まさか様子を見て来てくれるっていうのか?」
アンデッドの出現する場所は自分の得意とする場所だったので、グンルは頷いた。
「よし、じゃあ頼むぜ、そこまで来てるはずなんだ〈黄色い帽子と緑色の上衣を纏ったオークの老爺〉は。あとはお前が連れて来てくれるだけだ」
そちらではなく、行方不明者のほうだとグンルが真面目に答える。
「ああ、そっちな。あの〈スワロウテイル〉の奴が生きてたら『お前も賭ける対象を決めろ』って言っといてくれな」




