第25話 導き
円卓の騎士ウッドリーは〈飼育係〉とその獣たち、彼らの出現する階層自体をも大量のヤギによって破壊した。その肉を持ち帰り、一層の人々に振る舞ったが、肉の味を向上させる迷宮の効果を加えても大してうまくなかったので、人々は礼だけは言ったが、義務的に無表情で黙々と食べ続けていた。むしろ彼が呼びだすヤギを食べたい、こいつだって食料がないときはそうしているはずだ、と人々は考えていたが、ウッドリーが立ち去るとヤギたちも消え去った。
グンルはというと、ウッドリーのおこぼれに与って多めの収入が手に入った。またしばらくは旅を続けられそうだ。そしてカルネアデスが加わったのは大きい。彼の技術は迷宮探索をする上で相当に役立つはずだ。
「さらに、いざとなればそこいらの邸宅に入り込んで金目の物を拝借できるではありませぬか」と、紙をガサガサ言わせながらレームが囁いたが、これにカルネアデスが猛反発し、冗談でもそのような発言はしてはいけないと戒めた。レームはそれを受け入れるそぶりを見せたが、内心では納得していないという思念が伝わって来る。
迷宮守りなぞ、結局は物あさりだ。戦場での略奪や墓荒らし、さらに空き巣も、突き詰めれば同じようなものではないだろうか、そう彼女は考えている。
レームの家は代々、王都守護官直属の騎士を務めており、だが彼女はいつしか倫理観が壊れてしまい、しかもそれをへらへらと笑いながら嘯くようになってしまった。紙が顔を覆ったことよりも、それが原因で廃嫡に至ったようだ。凶賊に襲われた心因性のショックか、あるいはそれもまた迷宮病なのか、生まれ持った性質なのかは分からない。いずれにしろグンルはこの先、一座のメンバーからの精神的影響を受ける可能性もある。そこには注意しなければいけない。
夕暮れの通りを歩いていると色々なものが目に入って来る。まず、象がいる。その数はかなり多いように思われる。屋根の上とか、酒場の店先とかにもいるので、さすがにこれは幻覚だと分かるが、「おい見ろよ、象がいるぜ」などという人もいて、それもまた幻聴だ。動物の群れはグンルが見る幻の中でも、かなりの割合を占めている。
「そういう伝承は各地に多く残っているんだ。迷った旅人が見る幻視だ、例えば」アーロンが言った。その声は途中からいきなりドルシネアのぼそぼそとしたものに変わる。「カーヴドソードの発祥の伝説のように、英雄や聖者が迷う話……そこで突如出現した獣の群れに導かれて安全な場所に到達し、一命をとりとめる……そういう伝説が残る都市がいくつもある」
道を歩くことは旅だ。数分間でもそれは変わらない、ましてや初めて訪れる場所となればまぎれもない旅路だ。その勇気を楽隊がたたえる。その存在は実在のものだが、楽曲は幻聴だ。偉大なる旅人グンルとフュルギア一座、ならびにマルゴルの慈悲について賛美している。実際は酔客のリクエストに応えて、ごくありふれた戯れ歌などを奏でているはずだ。
獣の群れは導きだ、マルゴルが迷い人に手を差し伸べている。だが時としてローギルを始めとする他の悪神や悪魔、魔物などによる欺瞞がさらなる混迷へといざなうものだ。




