第23話 第六調理室
第六調理室はとにかく肉を焼く場所だ。多くの人々が鉄板を前に調理をしており、煙が立ち込める。そこは広い倉庫か造船所の廃墟のような場所で、天井はなく、ところどころに崩れかけた石壁や井戸、かまど、無造作に積まれた薪などが配置されている。
この場所には毒に対して強い浄化作用があり、さらにどんな安い肉でもその味が向上するという話で、金のない迷宮守りが質の悪い人造肉を持ってきては腹を満たしている。あるいは、毒入りと分かっている食品、例えば陶片地区のトウモロコシや豚肉などを消費することもできる。迷宮公社やそこらの肉屋に持ち込むと、査定の際に浄化費用は差し引かれるので、自分で消費した方が早い。この第一階層には魔物も出てこないので安心だ。
肉を焼く人々は黙々と食べていたが、豪快に表れた騎士ウッドリーについて尋ねると、先ほど階下へ向かったと教えてくれた。あんな余所者は〈飼育係〉にやられて餌にされちまうのがオチだ、と彼らは言う。〈飼育係〉はこの迷宮の地下にいる魔物で、来訪者を捕まえて獣たちに与える役目を負っている。
「だけどよ、円卓の騎士ってのは大したもんなんだろ? 迷宮主を倒しちまうかもな」
倒した場合どうなるのかとグンルが聞くと、
「迷宮がある限り、迷宮主はまた蘇るもんだ。倒した奴がなり変わることもできるっていうが、それには迷宮に認められる必要があるって話だ。詳しくは知らねぇが、そっから出らんねぇなら呪いみたいなもんじゃねぇか」
階段を下って二層に降りると、そこは狭苦しい通路だったが、妙なことに大量のヤギがいた。極めて邪魔だ。
「なんだよこいつらは、魔物か? それにしちゃ、こっちを狙ってくる様子はねぇが」
ヤギたちはただジロジロと見てくるだけで、何もしてはこない。
「心配ない……このヤギたちは騎士ウッドリーがその魔法具〈パーンの貝笛〉で召喚した存在……こちらから手を出さなければ問題なし、間違っても上で焼いて食べたりしないように……」
突然、ヤギの群れの隙間から一人の人間が出現した。囁き声で喋る、エプロンと頭巾を身に付けた少女だ。また自分の幻覚かも知れないとグンルは思ったが、「なんだあんたは?」とカルネアデスが誰何したので、どうやら実在人物らしい。
「いいえ幻覚……ワタシはフュルギア一座の記録係、ドルシネア……そしてどうしてカルネアデスがワタシを目視できるかというと……彼も既に半ば一座に加入しているため……つまり準座員」
ドルシネアの右目は何の変哲もない淡い青色だが、もう片方は明るいオレンジ色に輝いている――魔術を宿しているのだ。それは間違いなく真実を――彼女が真実と捉えている何事かを見据えている。




