第22話 幻
公社に入ろうとすると、いきなり屈強な戦士がドアを突き破って吹っ飛んできた。グンルは回避したが、後ろにいたカルネアデスに衝突――したかと思われたが、彼の肉体が粘性のある油のようにどろりと揺らぎ、すりぬける。話に聞いていた彼の魔剣〈白波〉の力だ。
巨躯のエルフが高笑いしながら出てきた。サーコートには円と竜の紋章が描かれている。かつて遭遇したフレデフォートと同じく、迷宮都市ラウンドテーブルから来た騎士に違いなかった。
「どうした、貴様の力はその程度か! この我、ウッドリーの前には力自慢だろうとこの程度よ」
「なんだい、あの荒くれ者は」立ち去る騎士を見ながら、そう疑問を呈するカルネアデスにグンルは説明する――彼ら〈円卓騎士団〉は故郷の闘技場を宣伝するための遠征に出ており、その力を誇示したがるのだと。たぶん彼から喧嘩を吹っ掛けたのではないだろうが、決して売られたものを拒否することはないだろう。
「闘技場の出場者か、そいつは荒っぽいのも納得だぜ。ひとまずその野郎を介抱するか」
被害者はもともと鍛えているだけあって、騎士ウッドリーに殴り飛ばされても意識はしっかりしていたが、ぶちのめされたのがショックな様子だった。
「あんたはこれまで負け知らずだったのかもしんねぇが」カルネアデスが慰めの言葉をかける。「奴に負けたからって、たったの一回じゃねぇか、ほとんど無敗と同じってわけだ、誤差みてぇなもんだな」
グンルは黙ってそれを聞いていたが、ゼロと一の違いはかなり大きいのではないかと思っていた。慰めを受けた戦士はカルネアデスに礼を言い、ここに来たばかりだと言った彼に、手ごろな迷宮の場所を教えてくれた。あのウッドリーもそこに向かうと言っていたために、もしかすると魔物が彼になぎ倒され、死体漁りの狙い目かもしれないとのことだ。
その向かうべき場所は〈第六調理室〉と呼ばれており、第一から第五の調理室があるのかどうかは不明。さっそくそこへ向かっていると、風生まれの武装集団とすれ違った。「あれ見ろよ、フュルギア一座の同伴者だ」「グンルって名前だろ」「あのドヴェルが今回選ばれたのか」「たぶん彼女はいずれ■■■だよ」
グンルがそちらを見ていると、カルネアデスは怪訝な顔をした。
「なあ嬢ちゃん、今まさに例の幻覚ってやつが見えてるのかい、それに色々口走ってるけどよ」
風生まれたちはどうやら幻覚だったようだ。そして、グンルはかなり口数が少ない方だと自覚していたが、無意識になにか喋っていたのだろうか。
グンルは、ことによると、いずれレームと同じようにカルネアデスも一座に取り込まれるのではないかと思えた。今だって既に、彼は自分にしか見えていないのかも知れないし、彼が喋っているシーンはすべて、本当は自分が言っているのではないだろうか。
「その恐れはありますね、貴方様。しかし今考えても、詮無きことではありませぬか」レームがやけに近くでそう言った。彼女の顔面を覆う、日ざらしの紙片のがさがさいう音さえ鮮明に聞こえた。




