第21話 湾曲地区
〈首無し勇者〉像の前の駅から路面列車に乗り、別の地区に移動する。車内でカルネアデスは、自分が持つ魔剣について説明する。
「こいつは便利な代物さ。おれの体を、なんつぅか、存在しているが同時にしていない状態にしてくれる。瞬間移動みてぇなもんだ、壁なんかも抜けられるし、攻撃を回避しつつ反撃を見舞うこともできる。そうまさに……」
盗賊向きの一品。そう言うつもりだったのだろうが、彼は言葉を濁した。
グンルもまた、自分の素性を説明した。マルゴルによって〈最果てへの途路〉を辿る宿命を与えられ、幻影の同伴者〈フュルギア一座〉とともに旅をしている、その場に留まると何やら望ましからぬ出来事が発生するので、良く分からないが動き続けている。その他、妙な幻覚・幻聴が時折現れている。
カルネアデスは興味深そうに質問してくる。「今もその幻覚が見えているのかい」
窓の外で、無数の黒猫がこの列車の進行方向と逆に走っているが、それは自分にしか見えていないのだろうか。
「ああ、おれには少なくとも見えちゃいねぇな」
三つ先の〈湾曲地区〉の駅で二人は降りた。妙な場所だ。ごみごみとした街角はどこにでもあるようなものに見えるが、実は決定的に歪んでいる部分が点在する。ここでなら、自分の幻覚も気にはならないようだとグンルは思った。
例えばある楼閣は途中で直角にねじ曲がっているし、ごく近くにあるように見える建物は、かなり遠くにある巨大なものだったりする。群衆はある地点で、必ず一時停止し数歩後ろ歩きしてまた進む。景色そのものに穴が開いているように見えたら、実際にそこはそういう形状になっている。
大通りの両側に聳え立つ建造物の壁面には、逆さまに何かの生物の大きな化石が吊り下げられていた。戦利品なのか何らかの宣伝なのか、まじないなのか、あるいは自分だけが見ている幻影か。階層上部は天蓋が塞いでいるはずだが、青く霞み、雲らしき何かが渦巻いているように見えるし、鳥の群れさえ行きかう。太陽のように白く輝いているのは備え付けられた大出力の魔力灯だ――それは屋外の日没に連動して消える。
「まずは迷宮公社に顔を出してみるか」
下った坂道は途中でいったん上り坂になり、少し進むとまた下り坂に戻る。迷宮が生んだ都市は不条理や無駄というものが各所にあるが、この地区はだいぶ露骨だ。それでも公社支部の前に立つミノタウロスの像は、よそと変わらずに堂々と松明を掲げている。彼らを率いた伝説の迷宮守りミノスは、このような場所でも惑うことなどはなかったはずだ。




