第20話 白波のカルネアデス
カルネアデスと名乗った盗賊的な人物は、エールを注文する。店員に胡散臭げな眼でじろじろ見られたが、彼は気にしていないそぶりを見せた。
「最初に言っておくが、おれは盗賊の神ハルミナに祝福を受けた人間だ。そいつをおれは呪いと思っている。窃盗やごまかしなんてのは、最も恥ずべき行為だからな。真面目にこつこつと働く、正直な奴が一番偉いに決まってる。グンル、おれは組む相手を探しているんだ。今まで組んでた相手と別れたばっかりでな」
その理由を聞いてもいいだろうか、とグンルは言った。
「もちろんだ。結論から言うと、その野郎が盗みを働いて捕まったからだ。誤解するなよ、おれは無関係だ。もっとも、そいつがパクられたきっかけは、おれを怪しんで衛兵が職務質問をしてきたからだがな。あんたも知ってるかもしんねぇが、衛兵隊とか軍は、民間では許可されねぇ便利な魔術とか道具を使えるからな。おれが潔白ってことはたちどころに判明したのさ。だが、相棒は人様の魔道具に手を付けてて、その場でお縄になったのさ」
組んだとして、あなたは何ができる?
「開錠や罠の探知、索敵、斥候、尾行、そんなところだ――もちろん悪用なんざしたことは一度もねぇ。不本意ながらハルミナによって授けられた力だ。嬢ちゃん、あんたは流れの剣士だろ? 相棒が捕まっちまって、おれもこそ泥なんじゃねぇかって勘繰る奴らがこの区画にはいやがるんで、よそに行きたいってわけさ。おれの仕事は戦える奴のサポートだからな、それにドヴェルってのは実直な奴が多いから、あんたに声をかけたんだ。もちろん、あんたがおれを信じられねぇなら他を当たるが」
「この殿方がどこまで本当のことを言っているかは分かりませぬが」幻影のレームが言った。「仮に嘘つきな盗賊だったとして、魔剣にだけ注意していれば、何か盗まれる心配なぞ貴方様には必要ないでしょう、グンル」
確かにその通りだった、〈墓荒らしのケペシュ〉以外には、盗まれて困るような貴重品は持っていないし、この魔剣にしても運よく舞い込んで来た代物で、失っても元々といったところだ。グンルは、カルネアデスと組むことを承諾した。彼はほっとしたように頷き、よろしく頼む、と言った。
その後エール一杯を飲み、明日よその地区に旅立つため、駅で待ち合わせをして別れた。
宿に入り、ベッドに寝そべると幻影が部屋の中を横断した。七色の鳥が羽ばたき、壁を突き抜ける。古代の王や伝説の勇者などといった軍勢が天井を行進する。
「愉快な見世物だ。こちらが見せているわけじゃないけど、少しは息抜きになるんじゃないかな」アーロンが壁に立って言った。
グンルは、寝たいので今は消えて欲しいと頼んだ。すると彼は「もう寝ているよ。そしてあと二秒で起きる」
二秒後には確かに朝で、気力・体力ともに完全に回復している。




