表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DUNGEONERS:VAGRANT  作者: 澁谷晴
第2章
20/91

第19話 規範的盗賊

 グンルは下の階層に移動した。最初に彼女がやって来たカーヴドソードの地区は、橋桁の上部に築かれた街だったが、その内部にも無数の階層と居住区、迷宮が存在している。


 不確かな素性の黒騎士〈日ざらしのレーム〉はあれからも呼べばいつでも出現したが、その姿は他の誰にも見えはしない。アーロン・アンダースと同じ存在になったのだ。〈フュルギア一座〉について質問しても彼らは曖昧にしか答えてはくれなかったが、それはグンルが〈最果てへの途路〉を辿るための手助けとなるものだという。


 迷宮病の症状が進行しているとも言える。この二人以外にも、視界にちらつく何かを見るようになった。それはどうやら人型をしているようだが、集中すると消え失せてしまう。囁き声を聞くこともあったが、それらは迷宮内に入り込むと発生しないので、戦闘には支障をきたすことはない。つまり、気にする必要がないということだった。あるいは、無意識に思考が変質しているかも知れないが、グンル本人はそれに気づくことはできない。


 【君が望んでいるものは〈最果て〉にある。潜界存在を視るのだ】雑踏のざわめきの中、いきなりそんな台詞が囁かれた。幻聴か。レームが言っていた〈座長〉か? 意味深にして不明瞭なアドバイスは魔人(フィーンド)たちが好むものだ。だが彼らは常に堂々と姿を見せる。やはりこれは自分の幻聴だろう。


 この市場は看板だらけだ。恐らくは迷宮が勝手に作り出したものだろう。読めない文字で書かれたものも数多く混じっている。ここに来る前にいたコンスタンスフェアを思い起こさせる。グンルはそこで騒乱に巻き込まれた――いつも蝶が舞っている戦士〈ネロ〉。最高議会の手駒〈血濯ぎ(ブラッドレーヴァー)〉。妄執の帝国人。

 別れ際にあの生意気な風生まれ(ウィンドボーン)、〈烏の勇者〉からもらった〈墓荒らしのケペシュ〉は今も助けになっているが、あのようなトラブルがまたいつ舞い込んでくることか。


 酒場で飲んでいると見知らぬ人物が話しかけてきた。

「おう、ドヴェルの嬢ちゃん、隣に腰掛けても構わねぇかい?」


 グンルがその相手を見ると、とたんに、確固たる印象(・・)を受けた――この男は典型的な〈盗賊(シーフ)〉だ。細身だが筋肉のついた体躯。ぼろぼろの外套。闇に溶け込む黒染めの装束。頭に巻いたバンダナ。鋭く油断ならない目付き。顔の傷。短剣とロープ。錠前破りの七つ道具が入っているであろう荷物入れ。勝手に、彼が仕事をする場面が脳裏に浮かんでくる。バカン王都ブランハイムの路地裏を、音もなく駆ける姿。盗賊ギルドの酒場で声を潜めて符丁を囁く。帝国の大砂漠で四十人からなる盗賊団を率いる雄姿。


 戯画化したかのような、まさしく盗賊と断言できる相手がそこにいた。


「……違う、おれは善良な市民だ。盗みなんざ、生まれてこの方したことがねぇ」

 見た者に規範的盗賊だという印象を与えるこの人物は、グンルの内心を読んだように、首を振って否定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ