第18話 フュルギア一座
ゴブリンの露天商は顰め面を向け、こちらが牛乳の代金を差し出すと無言で頷き、それを受け取った。グンルはカウフェイスは、人族ではなく「食卓に乱入して牛乳を奪う」という性質を持つ魔物だと考えていた。あるいは迷宮病の重篤な罹患者か。つまり、その出現区域内で条件を満たしさえすればよいのだ。
「本当にこのような手でおびき出せるのでしょうか」
そう疑問視するレームだったが、グンルは物は試しと脇道で牛乳を飲もうとする。すると、驚いたことに本当に、路地の奥、降り注ぐ光の柱の下に、乳牛の仮面をかぶった怪人が現れた。手には角材を握り、こちらに向かって闊歩してくる。グンルは手にしていた牛乳の容器を、カウフェイスに向かって投げつける。怪人は飛び跳ねてそれをつかみ、マスクの口から――実際に穴が開いているようだ――飲もうとする。
だが、直前で中断し、それを地面に投げつける。グンルが買ったのは、とっくに腐っている牛乳だったのだ――あのゴブリンが売っていたのは、どれも腐ってるか腐りかけのものだけ――魔石の触媒から放たれた魔術が飛来するが、カウフェイスはひるむことはなく、そのまま突っ込んでくる。着弾して出血してもおかまいなしだ。レームが加勢しようと抜刀する。
「よし、オレが手を貸すぜ」突如、アーロンが現れた。手には剣が握られている。初めてのパターンだが、彼も戦ってくれるようだ。「沼にも行ったし、このろくでもねぇ場所にも来た。あんたの放浪は、まだ始まったばかりだが幸先はいい」
彼の姿がまた消えると、カウフェイスの背後に現れ、ばっさりと斬りつけた。まさに獣じみた叫びとともに、怪人物は倒れる。
「お見事」レームがサーベルを鞘に納め、そう賞賛した。だが彼女にはアーロンは見えていないはずだ。グンルが怪訝に思っていると、続けてこう口走る。
「ただ今の一撃をもって決心いたしました、グンル殿。わたくしもこれより〈フュルギア一座〉へ加入いたします。もとより、わたくしを斬ったあの凶賊などどうでも良かったのですから。アーロン・アンダース殿、そして座長殿、未熟者ではありますが、よろしくお頼み申す」
いきなり不可解な言葉を述べ、虚空に向かって頭を下げると、アーロンと同じくレームの姿も消え失せてしまった。どうやら凶賊に斬られたという若殿とは、彼女本人のことだったらしい。それよりも〈フュルギア一座〉とは何だろうか、そして〈座長〉とは誰のことだろうか。
何より、今しがた消え失せた彼女もまた幻覚だったというのか? いや、何人もがレームと会話していたし、彼女自ら魔物を討伐していた。迷宮病に取り込まれたのだろうか。不可解な現実を前にして、グンルは静まり返った薄暗い路地の中で、ただ呆然としていた。




