第17話 影商人の地下街
その日は近くの安宿に泊まった。ここもまた食事提供はなしで、寝床のみを提供する形式だ。夕飯を食べに近くの酒場へ行った。そこの店主からの情報によると――ベレニスも言っていたことだが――これから向かう〈影商人の地下街〉では人が消えるという話だ。影の濃い方角へ奥深く立ち入らなければ問題はないということだが、もしかするとカウフェイスは既に亡き者になっているかも知れなかった。
地下街は乾いた深い排水路の底に位置していた。地下街と言っているが、つまりは不法占拠者の闇市だ。迷宮人や魔物も多いが、意志疎通ができるし攻撃しては来ない――少なくとも目に見える形では。
陶片地区の住民と違い、誰もがギラついた貪欲な目をしている。モーンガルドでは、こうした人々はとかく地下に潜る。最たるものが、吸血戦役で滅び深き迷宮に潜った、吸血鬼の王朝の残党だ。彼らは迷宮の魔物を喰らい、おぞましき呪術や魔術的改造によって、異形の軍勢となり果てたのだ。
やくざな市場の雰囲気は、グンルにバカン王国の路地裏を思い起こさせた。しかし向こうは盗賊ギルドのならず者だろうと、きっちりとルールに従って動く。こちらはもっと無秩序な、イメージ通りの、ある意味で健全な闇市場だ。
陶片地区の通りで採取できる毒トウモロコシを荷車で運び込む人足がいた。尋ねると、それを二束三文だが買い取ってくれる商人がいるそうだ。その他、質が悪すぎて地上では門前払いされるガラクタだろうと、誰かが必ず買い取ってくれるという。それが盗品だろうと、誰かの体の一部・全部だろうと。噂では、さらに深く潜れば記憶や技能といった、形のないものですら値をつけてくれるそうだが、戻って来れない恐れがあるという。
「客が見ている幻覚なんてのも買い取ってくれるのかね。そうだとしてもオレのことは売らないでくれよ……」アーロンが囁くように言った。
まだ浅い階層なので、売られている品も生易しい方だ――生け贄用の干からびた手首、不気味な唸り声を上げる芋虫、見るからに呪われている黒ずんだ鏡、いきのいい有毒生物。
「グンル殿、ここは情報屋からカウフェイスの居場所を買い求めるというのはいかがでしょうか」
レームが口にしたアイデアは悪くないと思えたが、あのこそ泥の賞金では足が出そうだ。それより、試してみたいことがある。
ほどなくしてグンルは、露天の店先でそれを見つけた――迷宮産百パーセント使用と記載された牛乳の容器。




