第14話 陶片の地下墓地
パン屋地下の墓所は、〈ヴァーノン通りの廃聖堂〉よりも厳粛な雰囲気が漂っていた。ここに眠る戦士たちの物語が記されているらしい壁画が、青白い魔力灯に照らされている。もちろん、かつてここにあった文明の遺跡などではなく、カーヴドソードの迷宮そのものによる産物だ。
レームの顔面を覆う日ざらしの紙片は、彼女にさまざまな情報をもたらしているという。次の角にアンデッドがいるとか、罠が仕掛けられているとか逐一知らせてくれた――視界を確保しているのはこれとはまた別の手法らしかったが、一部の魔法生物のように、魔力でもってものを視るように変異したのかも知れない。
アーロンに、あなたはあのように偵察のようなことはできないのか、とグンルが尋ねると、彼は、今はできないが、さらに〈最果てへの途路〉を辿ることで可能になると答えた。
出現する敵は古代の剣闘士といった雰囲気のスケルトンたちだが、緩慢に錆び付いた剣を振り回すだけで、廃聖堂の魔物とそう難易度は変わらなかった。
「ふへへへ、やはり格下を相手に力を存分に揮うのが一番ですなぁ」と、レームはへらへらと笑っていた。グンルのイメージする騎士らしからぬ発言だが、その抜刀術は極めて速く、彼女自身もまた、風のように目にも止まらぬ動きを見せた。
〈天火〉に斬られ、銀色の炎に包まれた魔物はたちどころに動きを止める。この魔剣はアンデッドのみならず、迷宮に住まう生き物全般に絶大な効力を発揮し、その力を消し去ってしまう。これの祝福権をかつてソリス教会から奪ったことで、軍府方は大きくその勢力を増した。魔物以外にも、迷宮都市に住まう人族に対してもまた致命的であったからだ。
セワードに言われた通り、仙骨と左の大腿骨を手当たり次第に確保する。その他手に入ったのは、余所に持ち出すと土くれと化すという硬貨数枚、赤ドロの缶、血みどろの革手袋、迷宮芋の箱、穴の開いた鍋といったところだ。
その他、数枚の紙束が重々しい金属の物入れに入っているのが見つかった。それは肖像画と名前、罪状と賞金額の書かれた手配書だった。
「これは都市当局が発行したものではありませんね、〈法の神ザム〉が独自に規定したものでしょう」
レームがそう言ったので、あまり聞き覚えのない神だとグンルが言うと、どこかに教会や信徒の集いがあるわけでもないからそれも当然だ、とのことだった。かなり古い神で、天空神ヒムの弟とか息子とされているようだが、それ以外の詳細は忘れられている。
「裁判所の前に、ザムの像があるのがせいぜいでしょう。しかし時折、こうして人族の社会では知られていない罪人を、かの神は迷宮にて告知するのです。ことによると、もともとは存在していなかった者たちを迷宮が生み出しているとも言えます。この手配書は〈賞金稼ぎギルド〉が買い取ってくれましょう、わたくしが目を通しておきますゆえ、罪人を見かければその時お知らせいたします」




