第12話 鉄仮面亭
「なるほど、貴方様は放浪することを定められた身なのですね。それはわたくしも同じではあります。やはり同じ場所に留まるというのは生活の安定という反面、停滞をも意味しますからね」
イリス地区から移動した先の陶片地区。半壊した酒場でレームとともに飲んだ。何か原因があって崩壊したのではなく、最初からそうした形で迷宮によって生み出された店舗だ、こうした場所は修理しても一晩で元のように崩壊するので、ほったらかしになっている。
ここはイリス地区よりもさらに弛緩した空気で満ちていた。何か強い目的意識を持って動いている人物はほぼ見かけなかった。誰もがすべてを、なんとなくやっているという感じだった。
大通りは舗装されておらず、背の高いトウモロコシが生い茂っていた。そのさなかを手持ち無沙汰な迷宮守りや豚などがうろうろしていた。トウモロコシや豚は毒があるので食べてはいけないと、酒場の店主が教えてくれた。そのほかにも、色々と注意事項があるようだった。たまに茂みの中から象が出現するので、踏みつぶされないように気を付けること。露店で売っているものは大抵、注意書き通りの効果は発揮しないので買わない方がいいということ。迷宮で入手した通貨は、よそに持ち出すと土くれと化すため、この地区内で使うこと。
酒場の主人は親切だった。声からすると恐らく中高年の男性だろうが、顔は分厚い鉄仮面で見えなかった。それは呪いのアイテムなのかと尋ねると、そういうわけではないが、仕事中は基本的に付けっぱなしにする契約になっている、と答え、それ以上は話してくれなかった。
ひとまずこの近くでアンデッドが出るのはどこかと尋ねると、屍術特区に指定されている場所があるという。通常、イーグロン大陸全土で迷宮外での屍術使用は禁止されているが、許可されている地点もある――基準は不明――大抵そこは屍術師ギルドの拠点になっているが、この陶片地区ではあらゆる組織だった活動というものは大して行われないので、はぐれ屍術師が練習に来る程度らしい。ちなみに、屍術禁止は民間人に対する法で、各国の軍はこれを利用した強化兵士を多数抱えている。もっともそれは屍術ではなく賦活術とか祝福とか言われているのだが。




