第11話 日ざらしのレーム
それから一週間ばかりアンデッドを狩り続けた。ネンボや他の迷宮守りと話した結果、大したことは分からなかったが、迷宮病の症状というものは、大抵、本人が信じるままに行動することが最も適切な結果をもたらす。前例や常識というものは、何の役にも立たないことが多く、それよりも妄信・直情的な行動といった乱暴な過程がなにがしかの結果を生み出す。
ひとまずはアーロン・アンダースの発言を鵜呑みにし、このカーヴドソード内で巡行を繰り返すことにする。やることといえばこれまでと大して変わらないではないか。どこかに定住するというつもりはなかった。前にいたコンスタンスフェアでのように、時折厄介事に巻き込まれるかも知れないが、どうにかやりすごすことはできるはずだ。最果てとやらにたどり着けず野垂れ死にしたとしても、そこが自分の最果てだったというだけのことだ。ひたすらにベーコンエッグと迷宮守りのシチューを食べ、宿の暗い部屋を出入りした。
ある時、宿を引き払い移動することに決めたグンルは、路上列車で妙な人物に出くわした。彼女はヴェント人だった。かの地は、何世紀も他所から迷宮によって隔絶された、特異的な国だ。王宮ではなく、屈強な騎士たちの棟梁が打ち立てた政権〈軍府〉が実権を握っている。
〈日ざらしのレーム〉と名乗った黒騎士――主君を持たぬ騎士――は、質素なローブと草で編んだサンダルだけを身に付け、うっすらと揺らめく炎のような銀のオーラを纏ったサーベルを帯びている。それはヴェント騎士が仕官するさいに主から賜る〈天火〉という魔剣だ。
レームは口元を除いた顔面が、古本のように茶色く変色した無数の紙片に、鱗のように覆われていた。これは彼女の迷宮病の症状だった。前が見えないのではないかと尋ねたところ、「だいたい分かる」という曖昧な回答が返ってきた。
彼女は、ヴェントの王都を警備する騎士だったという。
「王都ネーベルトールにて、恐ろしき凶賊が現れまして」レームは言った。「そやつを相手に不覚を取りまして、我が主の若殿が危険に晒されてしまいました。それゆえに暇をいただいた次第です。ああ、まこと、わたくしが未熟であるがゆえに」
命に別状はなかったものの、レームが仕えていた主君の嫡子が負傷し、家臣団からは自害せよとの声も上がったが、これまでの献身を買われ、解任で済んだという。話を聞く限り、かなりの不祥事だが、どうも単なる世間話といった口調だ。この流れ者は聞きかじった他者の境遇を、自分のことかのように話しているだけか、もしくは作り話ではないのかとグンルは訝しんだ。その凶賊は国外へ出奔したそうだが、自らの手で捕縛するというつもりでもなさそうだ。




