1年生10月 異世界には女王というラスボスがいます
「アリス、やっと会えた!」
東領家中学校1年の廊下に訪れた、放課後の解放感。
1年1組の教室を出ようとするアリスは、突然遠くから声を掛けられた。
「えっと……、どなたですか?」
「私、3組の砂田真凛。
どうしても、アリスと話したかったんだ!」
「私と?
何か、私よりデブになりたくないとかですか?」
ここまであまり触れてこなかったが、アリスは「オメガピース」の兵士のくせに、ぽっちゃり系女子である。
「違う、違う!
異世界から中学に通ってるんでしょ!
私、アリスの住んでいる異世界のことが知りたいの!」
「ロクな世界じゃないですよ?」
アリスは、真っ先に「オメガピース」の中を思い付く。
「オメガピース」は、一応という言葉を付けてはいけないほど真面目な戦闘組織である。
「ううん。
ロクな世界じゃなくても、私、異世界ってだけでときめくの!
だって私、周りからもロマンチストって言われちゃってるし」
「ロマンチスト・マリン。
なんか、海で黄昏そうな感じの物語が始まりそうですね」
「私、海とは関係ないから!」
アリスは、真凛と一緒に校門を出る。
あと何分もすれば、また「オメガピース」に転送されるので、アリスはできるだけ通ったことのない道に足を踏み入れた。
「もしかして、異世界ぽい雰囲気の場所に連れて行こうとしてる?」
「かも知れません。
私、時間で戻されてしまうので、この辺のこと全然分からないです」
「じゃあ、アリス。
案内してあげるから、その間に異世界のことを聞かせて!」
「分かりました」
真凛は、アリスを大通りに連れて行き、車通りの多い通りをひたすら東へと向かった。
「私のいる世界は、とっても厳しいです。
仕事中にお菓子食べてたら、必ず怒られます。
授業中のお菓子は、先生ももう諦めているのに、異世界ではそれが通じないんです」
「何それ、厳しそう!
もしかして、その世界を支配しているのは転生してスキルMAXになってる普通の男子とか?」
「いえ、女王です……」
アリスが怒られているのも、アリスの前で常に力を見せつけるのも、全て同じ部屋のトライブである。
「女王様!
すっご!
なんか、ふざけてると怒られるところで、スキルを上げていくのいいかも知れないね!
……というか、女王様はラスボス?」
「ラスボス、と言うかソードマスターです。
戦わせたらメチャメチャ強くて、普通の剣士を相手にしたら一瞬で勝負がつきます」
「そんなラスボスがいるんだー!」
平和を守る軍事組織だということを、アリスは完全に説明から抜かしている。
これでは、トライブが世界を支配する魔女ということになってしまうぞ。
「じゃあ、今度行ってみますか?
マリンさんが異世界に転生して、剣以外で女王に勝てるようなスキルを身に付けるとか!」
「剣じゃダメ?
私、異世界に転生したらチート級スキルで剣を持った勇者になりたいもん!
バーニングカイザー見てたら、ますます勇者に憧れちゃった!」
「あれは、名乗りから勇者ですもんね。
でも、本当に戦ったら痛い目に遭いますよ。
いや……、本気でぶつかってきたら結構いい感想を返してくれるかも知れないです!」
アリスはそこで気付いてしまった。
トライブを学校に呼べばいいだけの話なのでは、ということを。
もう手遅れだが。
「というわけで、私は異世界に旅立ちます!」
「行っちゃダメです!」
トラックが普通に通っている中、真凛は身を道路に乗り出そうとした。
アリスがそれを本気で引き留める。
「って、冗談!
そんな、面倒見のいい女王様のもとにいるアリスも、結構人間として成長してるじゃない」
「あ……」
真凛が微笑む先に、アリスは一瞬トライブの残像を見た。
アリスはいつか、お世話になっているトライブを呼ぼうと、この時はっきり決意したのだった。




