1年生9月 夏休みの宿題はヤギさんに食べられました!
「アリス。
夏休みの宿題、いい加減出して下さい」
2学期が始まって3回目となる数学の授業。
東領家中学校1年1組の教室が静まり返る。
夏休みが終わって、2週間近く経つというのに、アリスはひとり、英語と自由研究以外の全ての宿題を提出していないのだった。
アリスの言い訳は、こうだ。
「あの……。
宿題のプリント下さい……。
ヤギさんに食べられたので……」
「ヤギさんに食べられたので……?」
数学教師の声が裏返る。
クラスメートからは、クスクス笑い声が聞こえる。
「あのなぁ!
夏休み明け最初の授業でも、プリントなくしましたって言ったんじゃないのか。
その時の言い訳が、ゲリラ豪雨で濡れちゃってビリビリになっちゃった、とかだったな」
「はい。
証拠動画、TikTokに上げてますよ」
どうして、異世界からの中学生がTikTokを知っているのだろうか。
何はともあれ、アリスはTikTokではなく、普通にスマホのビデオを数学教師に見せた。
「おお、本当に雨で濡れてしまったのか。
随分と雨の強い日に勉強してたのか」
勿論、雨は動画で見せていない部分に置いたシャワー。
床までびしょ濡れにするという演出であり、言うまでもなく同じ部屋のトライブに怒られている。
「で、ヤギに食べられる瞬間も撮ってますよ」
「いや、撮るんだったら普通にヤギの口から引っ張れ」
数学教師のツッコミには耳も貸さず、アリスは別の動画をスマホで再生。
アリスが宿題のプリントをヤギに近づけていた。
ヤギと言っても、『アルプスの少女ハイ〇』の映像に出てくるヤギ。
当然、実際には食べられるはずがないのだが、アリスは適当なところで数学のプリントを、動画に映っていないゴミ箱に投げるのだった。
「なんか、あのヤギ食べてなかったな」
「いや、最後ペロッと丸呑みしました。
今も、ヤギさんの口の中で消化されずに残ってます」
「本当か。
もしそれが本当なら、ヤギの唾液だらけの数学のプリントが、世界のどこかにあると。
……冗談もいい加減にしろ!」
「バレた……」
既に、数学の授業が始まって5分もアリスのために費やしている。
これ以上は我慢の限界だ。
数学教師が、アリスを席に戻す。
「要は、数学の宿題をやりたくないからだろう。
そんなアリスは、夏休みの宿題を全部終わらせるまで、補習部行きだ!」
補習部。
それは、バーニングカイザーに変身できるあの生徒も入れられてしまった、底辺部活である。
「待ってください。
本当に、学校にヤギさんが来たら、許してくれますか?」
「あ?
来るわけないだろ!」
「ヤギさんだって、自分の失敗を悔やんでいると思います。
紙だと思ったら、数学の夏休みの宿題だった、戻さなきゃって」
夏休みの宿題だって、広く捉えれば紙である。
「じゃあ、ヤギが来たら、その予言能力に甘えて宿題免除。
で、2学期の数学の成績は1を付けよう」
「やった!」
やった、じゃない。
「いつから、今の子供は夏休みの宿題から逃げることばかり考えるようになったんだ。
こうすればこうなると、そういう能力を深めるのが、数学の授業なのに」
不機嫌そうに授業を始める数学教師。
さすがに、アリスもそれ以上笑いのネタを思い付けるような状況ではなかった。
そもそも、一度はゴミ箱に投げた数学のプリントが、トライブに拾われて、アリスの引き出しの中にあるのだから。
「やるしかないか」
そんなアリスでさえ、知らなかった。
数日後に開催された文化祭で、ヤギではなく、八木というソルフレア教の司祭が東領家中学校を訪問することになるのを。
そして、バーニングカイザーと八木とのバトルが、文化祭の一大イベントになってしまうことを。




