1年生7月 プールに入りたい大作戦
「わーい!
プールだプールだ!
どっぼーん!」
「コラ! アリス!
先生が言う前にプールに飛び込まない!」
夏本番。
ぽっちゃり体質のせいで汗が大量に出るアリスにとっては、早く水に浸かりたい気持ちが先走っていた。
結局、1年1組のクラスメートに手を掴まれ、プールサイドに上がっては笑われる運命になるのだが。
「アリスはホント、水の中が大好きなようね。
プールの水なんて飲んでも、そんな栄養にならないのに」
「塩素はおいしいですよ?」
「塩素は食べ物じゃない!
とりあえず、そこまで水が大好きなら、アリス、こっちの選手用レーンで泳ぎなさい。
クラスに水泳部の人、いる?」
一人手を挙げた。
髪を短く切った、しなやかな体つきをした黒髪の女子だ。
水瀬蒼。
小学生の頃から水泳大会で優勝し、クラスの男子生徒からは「青いドルフィン」などと呼ばれている。
「ドル子ちゃん……」
「子つけないでよー。
で、先生!
この異世界中学生アリスちゃんと、何をするんですか」
「戦ってもらいます。
25mプール往復で、どういう泳ぎ方でもいいです」
「分かりました」
真っ先に、蒼がうなずく。
一瞬で決まってしまった運命に対して、アリスが体育の先生に食らいついた。
「先生!
私、水泳得意なんて、一言も言ってないです。
水が飲みたいとしか言ってないです」
それがアリスの本音である。
「泳ぎたそうにしてたじゃない。
まさかアリス、本当に初心者レベル?
3組に、全く泳げない男子生徒が一人いるんだけど、そういうレベルじゃないよね」
全く泳げない3組の生徒こそ、東領家中学校で世界の平和を守る、ロボット乗りの男子・煌である。
「そうじゃありません。
でも、私を本気にさせるために、一つ条件を下さい」
「何の条件?」
「食べ物で釣らないと、私は本気になれません」
「中学生にもなって、エサで釣る先生がどこにいます!」
はぁい、と声にならない声で、アリスはうなずいた。
せめてパン食い競争用のパンでもあれば、としか思えない。
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「じゃあ、水泳選手の水瀬さんと、たぶん素人のアリスさん。
全くレベルが違うかも知れませんが、二人の泳ぎを見て下さい!」
先生が笛を吹き、二人の体が一斉にプールに入る。
飛び込んだ後、より遠い距離で顔を出したのは、言うまでもなく蒼だった。
「やっぱり選手相手じゃダメです~!」
息継ぎの間に早口で叫ぶアリス。
蒼の背中がどんどん離れていく。
プールサイドから、生徒たちの笑い声しか響いてこない。
「負けたら、ただの笑い者……」
あっという間に、蒼がターンを終え、スタートに戻って来る。
その時、アリスは気が付いた。
「よし!」
アリスはすぐさま隣のレーン、つまり蒼が泳いでいるレーンに移り、プールの床まで一度潜ってそのまま一気に蒼の体を掴んだ。
「こ~ちょこちょこちょこちょ!」
いきなり体を掴まれた蒼は、水中でもがき苦しむしかない。
くすぐられた体が、水面で激しく上下する。
「やめてよー、アリスー!」
アリスのにやける顔。
できれば体の向きを変え、自分が25mプールの端に行けるように手を繋ごうとした。
当然、そんな手に乗るはずはなかった。
先生が。
「失格~!
てか、アリスは人の邪魔をしようとしただけじゃない!」
「あはははははは!
私、こんなことして楽しむの大好きですもの!」
「大好きとかそういう問題じゃありません!
アリスはもう、今日の授業見学してください!」
「はぁい……」
クラスメートに笑われる中、アリスはゆっくりとプールサイドに上がった。
この日に限って、背中がヒリヒリ焼けるのだった。




