1年生6月 アリスと蟻の巣
「アリス、そのお菓子、何?」
アリスが東領家中学校に入学することになって3ヵ月目、ついにそれがバレてしまった。
たまたま膝を曲げた女子に、机の中を見られたのだ。
アリスは、慌てて引き出しを閉じようとするが、時既に遅し。
「いや、何も入ってないです」
「お菓子が見えたよー?
給食もいっぱい食べてるし、それでも食べるんだー」
「あ……、あの……。
私、給食だけじゃ足りないんで……」
当然、給食は食い意地の強いアリスに量を合わせているわけではないし、給食当番もどれがアリスの皿か分からないまま配膳している。
だからこそ、「オメガピース」から学校用のお菓子を勝手に持って来ている、というわけだ。
そのことすら問題なのだが。
「でも、学校にお菓子をストックできるの、羨ましい。
異世界に帰ってるから、バレないものね」
「そ、そう……。
簡単に隠しておけるんです!」
アリスは、ついに引き出しからマカロンの袋を取り出し、突っ込んできた女子に見せた。
「せっかく見ちゃったんで、クッキーあげます」
アリスは、袋からクッキーを取りだし、その女子の手のひらに乗せた。
その瞬間、嫌な臭いが教室に漂った。
「アリス……!
これ、賞味期限切れとかなってない!
ところどころ黒ずんでるんだけど!」
「あ……?」
アリスは、もう一つクッキーを出してみた。
そっちの方が、黒ずんでいた。
「あー……、これ、腐ってますねぇ……。
『オメガピース』でソードマスターからくすねたのが……、もう半年ぐらい前」
「アリス!
それ、捨てた方がいいって。
なるべく、何重にも袋で包んだ方が、臭いでバレずに済むって!」
「ふぁい……」
アリスは、その女子から渡されたビニール袋に腐ったクッキーを包んでいく。
不安になって、引き出しの奥の方も調べた。
するとそこには、蟻が数匹お菓子を食べていたのだった。
「いやあああああああああ!」
「アリス……。
机の中に蟻を呼ぶなんて、見たことなーい!」
逃げ出す女子。
アリスは流しに行って、引き出しを洗うしかなかった。
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「さようなら、私のお菓子……」
翌日アリスは、市販のゴミ袋の中に腐ったお菓子を詰め込んで、ゴミ収集所にとぼとぼ歩いた。
ゴミ袋を見るたび、アリスの目に涙が浮かんでくる。
その時、ゴミ袋に誰かの足が触れたような気がした。
それも、硬い足。
「あ、すいません……」
アリスは、思わずゴミ袋にぶつかった生徒の顔を見た。
だが、逆にその生徒はアリスの前で立ち止まり、片手をアリスに振った。
「はろ~!」
「は……、はろ……。
って、なんかものすごく元気じゃないですか!」
その女子は、赤い髪で目が丸い。
見るからにやる気を生みそうな表情をアリスに浮かべていた。
「私、万田沙羅!
自称、学校で一番元気なサラマンダー!」
「サラマンダー……。
って、それ苗字と名前をひっくり返しただけの、オヤジギャグじゃないですかー!」
「私、オヤジじゃなーい!」
思わず笑った沙羅が、アリスの肩を軽く叩く。
「で、大好きだったお菓子を捨てるんでしょ?
辛いよねー」
「あ……、もうバレてる!」
一瞬で、お菓子を捨てに行くことが分かってしまった。
アリスは、やや体を後ろに傾ける。
だが、そこでアリスは息を飲み込んだ。
こうやって、理解してくれるように話すの、まるでソードマスターみたい……。
「えっと……。
蟻に食べられたんです!
引き出しの中が、蟻の巣になってました」
「それ悲しい!
早く食べれば良かったのにね!」
「それができないから、私は中学生をやり直すことになったのかなって。
アリスの蟻の巣……、なんてくだらないオヤジギャグしか言えない、ダメ中学生です」
「ダメじゃないって、アリス!
辛かったことは忘れられないけど、まだ大丈夫!
前向きに生きていきましょ!」
沙羅が、アリスの肩をポンと叩き、そのまま歩き出した。
この沙羅が、ソニックサラマンダーだとは、この時のアリスには思いもしなかった。




