3年生3学期 はじめての高校受験②
「ソードマスター、問題集どれくらい解きましたか?」
やり直し中学生をやっている世界から5教科の問題集を2冊ずつ買ってきてから数日、アリスは机に向かうトライブを後ろから覗き込んだ。
「まだ半分ぐらい。
入試当日には間に合うと思うけど」
「私、買ったやつ全部解きましたよ?
学校でも解いてましたけど」
この期に及んで初めて触れるが、異世界での時間の進行は『オメガピース』内ではほぼノーカンである。
つまり、アリスとトライブには勉強する時間の差がつくのは当然だった。
アリスは、トライブの解いている理科の問題集に目を落とす。
答えを書いた横に赤ペン、青ペンの文字が目立つ。
「えっ……、優等生のソードマスターが、結構間違ってるじゃないですか。
自称優等生ですね」
異世界でもあれだけバカをやってきたアリスには言われたくないだろ。
「半分ぐらいしか合ってない。
解き直しをしてるから、時間かかってるのかも知れない」
「そんなにできなくなるものですか。
ソードマスター、まだ25歳ですよね。
中学を卒業して10年で忘れるものですか」
「忘れる、というか……、習ってこなかったこともあったり、10年経って間違って覚えてるものがあったりね。
むしろ、私の方がいま勉強している感じよ」
ここで、トライブがアリスに振り返る。
その目は鋭かった。
「うわ……、戦う時の目だ。
負けたときは、すごく悔しがるやつ」
「そうね。
なんでこんな問題解けないのよ、って思う。
この問題を出されたら、二度と間違えられないって思う」
「えっ……」
『オメガピース』のソードマスターとして、日々強敵と戦うトライブ。
圧倒し続ける女王も、時には力尽きることもある。
その直後から、目の色が変わることを、アリスはルームメイトとして何度も見ていたのだった。
今は、まさにその目だ。
「ガチだ……。
ソードマスター、ガチだ……。
あぁなったときのソードマスターは、本当に本当にガチだ……」
「アリス、うるさい。
勉強の邪魔になるから、あまり話し掛けないでちょうだい」
「分かりました……」
トライブに背を向けて、一歩、二歩と離れていくアリス。
体で表現せずとも、心の中でガッツポーズを浮かべていた。
「これ、ワンチャン勝てるかもしれない……。
学校で勉強してきた私の方が、有利だから」
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そして、県立高校の入学試験当日を迎えた。
トライブが3年間触れ続けてきたチャイムが鳴るとともに、アリスとトライブがいつもとは違う場所に転送される。
「領家北稜高校……?
なんか、噂で聞いたことがある高校です」
詳細な説明は避けるが、あの配信者の通う高校である。
「とりあえず、入学試験会場って書いてあるから入りましょうか」
「えぇ」
アリスとトライブは、並んで領家北稜高校の中に入る。
受験生はみな、受験票を持っていた。
そこで、アリスが気付く。
「あっ、私、願書出した覚えがないです!」
「本当……?」
トライブの表情が曇る。
願書を出した覚えがないのだから、アリスの手元に受験票なんてあるわけがなかった。
しかも、トライブが同じ入試を受けることは、学校にすら連絡していない。
そこに、領家北稜高校の教員が1人、近づいてきた。
「受験票がないのなら、再発行しましょうか」
「はい。
あの……、異世界から高校受験をしに来たアリス、って言えば分かると思います」
分かるわけがない。
「こちらです」
「えっ……」
秒で返されたアリスは、2人を一番手前の教室に案内した。
広い教室の中に、何故か2席だけ机が置かれている。
「うちの高校に、有名なユーチューバーがいるんですよ。
中学でアリスさんが、2人で高校受験バトルをやってるって言ってたじゃないですか。
その情報を掴んでいたので、こちらでお待ちしていたのです」
「北稜高校で受験する話は、伝わってないですよね」
「いえ。
『もっとおバカなことができる、自称Fラン高校の北稜だったらいいな』って、中学の廊下ではっきり言ってましたよ」
「アリス……。
これからお世話になる高校に、何を……」
トライブが、アリスを睨みつける。
アリスの現在の表情、てへぺろ。
「というわけで、バカと言われてきたやり直し中学生にFラン高校と言われた以上、最低限の学力は持って欲しいと独自の入試問題を作りました。
5科目ぶんです。
事前に話に出ていた、今日多くの受験生が解く県立高校の入試問題ではありませんので、ご承知おきください」
「マジかー……」
自らの失言で状況が変わってしまった、2人にとって初めての高校入試。
だが、席に座った2人のうち、より表情を曇らせていたのはトライブのほうだった。
「これから出てくるのは、未知の問題かもしれない……」




