1年生5月 バスケ部のイケメン男子
「オメガピース」での作戦が終わった後に、東領家中学校で授業を受ける生活も、はや2ヵ月目。
初めの頃は給食の物珍しさにはしゃいでいたアリスだったが、今や給食が終わった「午後」になると、1日があまりにも長く感じることに気付いてしまっていた。
「1日長い~!
1日30時間欲しいと言ってる人、なんか間違ってると思う……」
発言が、どう考えても若々しくないアリスを、クラスメートが笑う。
「それって、すごく長い朝練ってこと?」
「あ、そうです。
というか、今の生活、朝が来て、昼が来て、朝が来て、昼が来る生活だから、どこまで朝練か分からないです!」
「異世界の時間って、そうなっちゃうものだよね!」
「そうですね。
疲れるだけですけど」
アリスは、机に肘をついて、あと数分は何も書かれない黒板を見つめる。
だが、その集中力が続かなくなって、ふと廊下に目をやったとき、青く輝く髪が廊下を通りかかった。
「なんか、この世界にライフルマスターがいる!」
突然体を起こしたアリスが、廊下に顔を覗かせる。
1年3組に向かう、青い髪の男子生徒。
ただ、「オメガピース」の最強銃使い・アッシュのように髪は長くなかった。
「人違いかぁ……。
でも、あの男子、イケメンだ……」
そこに、一人の女子がアリスの横に立ち、一緒になって廊下を見つめた。
「あの男子?
バスケ部の勇斗先輩。
1年生の誰もが憧れる、バスケのスーパープレーヤー」
「えええええええ!
運動神経がいいんですね!」
「そっ!
アリスも、勇斗先輩に近づくために、もっと瘦せたほうがいいかも!」
図星を言われたアリスは、お腹周りを見つめる。
ため息をついた後、アリスはその女子に顔を突き出す。
「そんなことないですよー!
私、こんな体でも『オメガピース』のイケメンに片想いしてるんですから!
愛しのアッシュ様、って言うんですけど!」
「すごいよ、それ。
ぽっちゃり系アリスを恋愛対象としない、ちゃんとしたイケメンなんだから!」
がーん……。
「えっと……。
片想い、と言った部分なしでお願いします」
「だって、自分で言ってるんだもん!
恋が実るわけないから!」
「はい。
おっしゃる通りで……」
アリスが空返事を口にしたその時、勇斗が1年3組の教室から出てきて、再び1組のドアで固まるアリスの前に近づいてきた。
勇斗の手には、友達だろうか、オレンジ色の髪の男子を連れている。
勿論、この時のアリスにはオレンジ髪の男子がバーニングカイザーということに気付くはずもないのだが。
「告っちゃいなよ、アリス!」
「分かりました!」
アリスは、両腕を大きく広げて、勇斗の前に立ちふさがる。
恋の眼差しをその目にいっぱい貯めながら、アリスは勇斗に想いを伝えようとする。
だが、その直後、1年1組の教室がざわつき始め、たちまちアリスの真後ろにたくさんの女子生徒が立った。
「キャーッ!
ワイバーンさまーっ!
今日もイケメンが素敵です!」
勇斗が通るスペースを空けて、女子たちが廊下の両端に立つ。
当然、アリスは伸ばした腕を、話したこともない女子生徒に引っ張られ、教室の中に投げ込まれた。
ドスン!
「いたたたた……」
廊下に、勇斗の青い髪が小さく映る。
女子がほぼいなくなった1年1組の教室は、当然ながら男子だらけ。
一瞬だけ訪れるその光景を、アリスははっきりと見た。
「あああああっ!
これはもしかして、逆ハーレム!
この中にいるイケメンと、私は将来異世界結婚を果た……」
「無理っ!」
複数の男子がほぼ同時に叫んだ言葉で、アリスは固まった。
空を自由に舞っていたハートが地面に落下し、ガラスの破片へと変わる。
「あ、終わった……」
勇斗を一度でも見られて満足の女子たちは、石のように固まったアリスには目もくれない。
アリスは、床に座り込んだままため息をついた。




