3年生3学期 はじめての高校受験①
「さて、皆さん。
いよいよ、自分の力で進路を決める時期に入りました。
自分を信じて、自分を出し切って、中学を卒業してからの進路を掴み取ってください」
東領家中学校3年1組に響いた、担任の声。
周りがみな「はい!」と言う中、アリスは一人戸惑った。
「先生!
やり直しで中学生をやってる私も、高校受験をしなきゃいけないんですかー?」
クラスメイトの顔が、一斉にアリスに向く。
浴びせられるのは、冷たい視線ばかりだ。
「アリス、か……。
どういう取り決めになっていたか先生にも分かりません。
ただ、高校受験は中学時代にしかできないですからね。
最初に中学生をやったとき、高校受験ってやったことがありますか」
「えっとー……」
ヤバい。
私、14歳の時に『オメガピース』に入ったから、実は中学校を卒業していないんだった……。
「はい、よく考えたら中学を中退してました」
中学を中退、というリアルの日本ではほとんど例がない経歴を堂々と口にした。
そんなアリスに届くのは、クラスメイトの笑い声。
「それじゃ、やり直さなきゃいけないのは当然ですね。
ということで、高校受験未経験のアリスにも、学校が決まるまで高校受験を受け続けてもらいます。
費用は当然、『オメガピース』で負担してもらいます」
「異世界の組織、とばっちりで草……」
「アリス!」
クラスが怒鳴り声と笑い声に溢れて、ホームルームはお開きになった。
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『オメガピース』に戻ってきたアリスは、同じ部屋で暮らすトライブに事を告げた。
「3年間学校で勉強したのは、高校受験のため、というのもあるわ」
「否定しないんですね、ソードマスター……」
強敵に挑むときの目で、静かに告げたトライブに、アリスは一歩足を引く。
「当たり前じゃない。
私だって、剣の道を選んでなければ、生まれたエクアニアで高校に行っていたかも知れないから。
でも、私は家で一人前の剣士になる道を選んだ。
勿論、高校レベルの勉強は独学よ」
「えっ……。
まさか、ソードマスターも高校受験未経験……」
アリスの声に、トライブが静かにうなずく。
「私がまたそっちの世界に行けるのなら、高校受験を経験したい。
入試問題に慣れてないから、スタートラインはアリスと一緒よ」
ヤバい……。
『オメガピース』が許してくれるか聞いただけなのに、ソードマスターを本気にさせてしまった。
「アリス。
明日、学校に転送されたら、学校の近くの書店で高校受験の問題集を買ってきて。
国語、数学、社会、理科、英語。全部で5教科分。
お金は行く前に渡すわ」
「私の分も、買った方がいいですよね」
「当然じゃない。
敵を知らないで戦うのと知って戦うの、どっちのほうが勝ちやすい?」
「それは、そうですけど……」
アリスが、高校受験なんて受ける必要ないと思い込んでいたことは、この数十秒でバレバレである。
「で、もし私がソードマスターに勝ったら、ソードマスターがやり直し中学生をやるんですか」
「やるつもりはないわ。
私は、通っていた中学で成績トップだったから。
ライバルに、テストで負けたくなかったから」
そうだった。
ソードマスターは、優等生だったんだ。
というか、中学を卒業して10年経ってるけど、勉強する必要ないような……。
「とにかく、県立高校の入試まであと時間ないんでしょ。
いま動かなくてどうするのよ。
同じ問題集を買って、同じ予想問題を解いて、私とアリスのどこが弱点かを見ようかしら」
「はい……」
完全に、ソードマスターに火を付けてしまった……。
単なる相談が、思いもよらぬ方向に進んでしまった。
アリスは、トライブが部屋を出た後、一人ベッドに座り込んで天を仰いだ。
「高校受験って、他の人との勝負だから、ソードマスターが本気になって当然か……。
嫌だなぁ……」
この時アリスは、本番で起きる奇跡を予想さえできなかった。




