3年生1学期 罰ゲームつき修学旅行①
「明日から、いよいよ修学旅行です!」
東領家中学校3年1組。
ホームルームで担任の中原が告げたとき、アリスは高く手を挙げた。
「やったー!
明日から3日間、『オメガピース』に戻らなくていいー!」
その瞬間、中原が教壇から飛び出し、アリスのところにやってきた。
「みんな、そういう気持ちを抑えて先生の話を聞いてるんですよ。
一人だけ、集団行動の輪を乱さないで下さい」
「でも、普通に嬉しいんです。
だって……、京都の生八つ橋、2日目に10個予約しましたから」
当然、自腹である。
「あのなぁ。
班別行動で、食べ物を買ってはいけないとか、食べ歩きをしてはいけないとか、しおりには書いていません。
ただ、君たちが中学3年生という、ある程度の常識を持った人間だと信じて書かなかっただけです。
ホテルで夕食も出るのに、八つ橋を10個食べたらどうなるか、少しは考えてください」
「はぁい……」
2度目の中学生活でも中学卒業レベルにならなかったら、またやり直しになる。
そんな不安が頭をよぎったところで、クラスの女子生徒、白木萌が手を挙げた。
「あの、アリスは食べる生徒です。
人の3倍くらい胃袋があるって設定みたいです!」
「なるほど。
アリスはつまり、モンスターってことか。
あんな茶髪で、顔だけはかわいい感じの女子なのに」
「先生!
それ、メタハラです!
メタボハラスメント!」
毎日毎日、トライブの注意そっちのけでお菓子を食べている人間が、権利だけを主張していいのだろうか。
当然、教室では笑いが起きる。
「よし、分かった!
アリス。君に、修学旅行中のミッションを与えよう!」
「ミッション……。
インポッシブルじゃないものにして下さいね。
デデンデンデデン♪」
デデンデンデデンは、『ミッションインポッシブル』の音ではない。
「改めて、アリスへのミッション。
修学旅行中に、体重を落とせ。
体重を落とさなかったら、最終日、京都に放置するからな」
「でも、私は……、放置されたって、普通に『オメガピース』に戻るだけですよ。
あっ……、そうか。
戻るまで、私一人の修学旅行を楽しめるんだ! やったー!」
「やったー、じゃありません!
今の京都は、インバウンドの外国人がものすごく多い場所です。
そんな場所で、アリスを一人にさせたらどうなるか。
自分で想像してください。
一人で、京都の街を歩けますか」
教室が、ざわざわし始める。
ほかの3年生の教室はホームルームが終わったようで、どんどん墓穴を掘っていきそうな1組のホームルームを生徒たちが眺めていた。
「歩きます。
誰も注意してくれる人がいないから、いっぱい食べます」
「学校生活ですからね。分かってますか。
もし、目にあまる行為を見つけたら、『オメガピース』に連絡し、あの女剣士に引き取ってもらいます」
「それだけは勘弁してくださいーっ」
アリスはじたばたし始める。
だが、ちょうどそのとき、英語教師の藤野が、金髪を揺らしながら教室に入ってきた。
「ガーデンスさんのために、保健室から体重計を借りてきました」
「体重……、計……」
アリスは、はっとなって席に座った。
だが、体重計を持って来る中原の目からは逃れられない。
「今日この時間を基準にして、京都を出る時に体重が上だったら、アリスは居残り京都。
いいですね。
不正のないように、上履きを脱いでください」
アリスは、ポケットに重いものを入れるようなことも思いつかないまま、目の前に差し出された体重計に足を載せた。
「87.2kg……。
この身長にして、この体重ということか……」
アリスが、公式のキャラ設定よりも10kg以上太っているのは、当然、ここまで2年間、給食という「追加の1食」があるからである。
「この数字、先生はいま画像に残しましたからね。
アリスも、1日目と2日目、お風呂に入った後に必ず体重を測ってください」
「分かりました」
こうしてアリスは、京都居残り阻止を賭けた修学旅行に出発することになったのである。




