2年生3学期 メロンパン・その後
冬の寒い朝。
2年2組の教室にアリスが入ると、アリスの席に巨大な箱が置かれていた。
「あ……。
私の席にお花……」
物騒なことを言っちゃいけない。
「……って、パン屋から何か頂ける?」
ク□ネコの伝票が貼られた箱の差出人は、領家市内にある有名パン屋、パン・ド・ナゾーからだった。
品名のところには、食品としか書かれていない。
そこに、クラスメートのさつきが箱の前に立つ。
「アリス。
昨日、アリスが帰った後に宅〇便が教室まで運んできたの。
アリスは普段異世界にいるから、ここにしか置けなくて」
「ありがとうございます。
あの……、さつき、さん?」
「どうしたの、アリス?」
「中に何が入ってるか、言ってなかったですか?」
アリスは、そう言いながら梱包のガムテープを剝がしていく。
さつきは笑っていた。
「中身、言ってたよ。
アリスが1学期に恥をかいたやつ。
社会の授業で、一人旅の発表をしたでしょ?」
「萌ちゃんに騙されたやつですか……。
あれはあれで楽しかったです。
あれ……? そこで何を食べたっけ……」
アリスの旅の記憶は、何を食べたかでしかないのだった。
「あー、いきもの食べてた」
某平仮名7文字のアーティストのファンから、なんつーオチだと言われたことだけは覚えているようだ。
「そうじゃなくて、メロンパン。
寝言で言ってたでしょ、メロンパン!」
「あーっ!
メロンパンのこと言ってました!
もしかして、それ食べられるんですよね。私」
「どうかな……。
メロンパンのオブジェかも」
「本物か偽物かで大違いです。
じゃあ、テープを開けますよ!
ベリッ!」
アリスが段ボールを開けた瞬間、中には大きな袋。
その中には、明らかにメロンパンの匂いが充満していた。
「この中、本当にメロンパンです。
もしかして……、私が海老名のメロンパンのことを学校に広めたからですか?」
「どうだろう……」
アリスが顔を上げると、さつきの後ろに見知らぬ男性が立っていた。
「あっ!
さつきさんの後ろに、誰かいます!」
「えっ……。
あっ、パン・ド・ナゾーで見る人……」
それがパン職人だと分かるまで、2人はものの数秒もかからなかった。
男性はアリスに軽く頭を下げた。
「君がどうしても、この世界でメロンパンを食べたいと言ってたから、特注品を作ってきたんですよ。
あっちの世界では、まず見ないサイズのはずです」
「ってことは、『オメガピース』自治区のパン屋で売られてる、ジャンボメロンパンよりも大きい……?」
そのサイズ、残念ながらこの教室でアリス以外には分からないのである。
「かも知れませんね。
じゃあ、手に取って下さい」
パン職人に言われるままに、袋の中に手を入れるアリス。
次の瞬間、指が届かないことに気付いた。
「あっ……、これ……。
ガチのやつだ……」
アリスは、片手で掴めないと分かると、すぐに両手を入れる。
ようやく取り出したメロンパンは、袋の中いっぱいに入っていた。
その重さ、1kg。
アリスの机いっぱいに広がってしまった。
「これ以上ない幸せです!
パン・ド・ナゾーさん、ありがとうございます!」
「いや……、ここからですよ?」
パン職人が、頭を下げたアリスをじっと見つめる。
アリスが突然、正気に戻った。
「このメロンパンの消費期限は、今日です。
つまり、今日中にこれをお召し上がりいただきたいところです。
まぁ、異世界に戻される時間を考えると、休み時間にこのくらいずつ食べても無理でしょうけど」
「アリス、食べるの好きじゃなかったっけ」
さつきとパン職人が、腕を組んでアリスを見つめる。
アリスの足が、1歩、また1歩と下がり、前の生徒の席に当たってよろけた。
「授業サボって、食べていいですか?」
「いけませんよ。
ちなみにこれ、プレゼントじゃなくて、メロンパンの悪夢とでも申しましょうか。
商品名、デビルメロンパン……」
「デビルメロンパン……!
頑張ります。いただきます」
こうして、この日のアリスにメロンパンの悪夢が襲ってきたのである。




