1年生4月 入学式のトラブルメーカー
「ガーデンスさん!
アリス・ガーデンスさん!」
聞き覚えのない声で、アリスは机から飛び起きた。
目をキョロキョロ。
教室だ。
「あ、私ホントに中学生になっちゃった……」
服こそベージュ色のシャツだが、胸のあたりに名札が付いている。
「東領家中学校 1年1組 アリス・ガーデンス」と書かれている。
「名札……。
ゲスト出演とかじゃなくて、本当に生徒なんだ」
周りには、見たことのない生徒や先生。
少なくとも、普段同じ部屋で一緒に過ごすトライブの姿は見えない。
完全アウェーだ。
一通り名前を呼び終えると、アリスの前に先生がやって来る。
「ガーデンスさん。
中学生になって最初から寝ちゃダメです。
既に、問題児だという話は聞いていますから、しっかりして下さい」
「はぁい」
アリスの小さな声にも、教室じゅうが笑いに包まれる。
一人だけ、意味も分からず返事をしたアリスだけがその場で残された。
「どうして違う場所から来たのに、問題児って情報が伝わってるんだろう……」
~~~~~~~~
入学式が始まる。
「オメガピース」の歓迎レセプションと同じく、緊張した雰囲気の中で、アリスは体育館に足を踏み入れた。
「本当に、中学生になっちゃったなぁ……」
紅白幕に囲まれた体育館に、拍手の音が響く。
1年1組、「ガ」で始まる苗字なので、入場順序はかなり早くなる。
そして、パイプ椅子の前に順々に詰められ、他のクラスの新入生が入るのを待つ。
拍手の音が鳴り止んだ。
「新入生、着席!」
「あー、立つの疲れたー!」
ドスン!
ボゴッ!
「……っ!」
アリスがパイプ椅子に深く腰掛けすぎたので、椅子が勝手に畳まれてしまった。
お尻が、椅子に飲み込まれていく。
「ぬ……、ぬ……、抜けません!」
ざわつき始める入学式会場。
周りの生徒も、一度立ち上がってアリスの椅子を持ち上げる。
――ただいまより、領家市立東領家中学校、令和5年度入学式を開会いたします!
異様な雰囲気の中で、勝手に開会宣言がなされる入学式。
それも、1年1組が一番前の席である。
両隣の生徒に引っ張ってもらって、ようやくアリスのお尻から椅子が抜けた。
「ガーデンスさん。
もしかして、体重で支えきれないとかないですよね?
でしたら、今すぐ取り替えますが」
「いや……、私がたぶんパイプ椅子の座り方を知らなかったので……」
椅子を元通りにして、ようやく着席したアリスのところに担任がやって来る。
担任は、既に呆れ顔だ。
「君は、常識が分かっていないようです。
話は聞いてますが、よっぽど何も知らないようですね」
「あの……。
私がバカで有名なの、知ってるんですか?」
「この学校への飛び級入学届を出してきた、ジルという女子からの素行メモに書いてます」
お姉ちゃああああああああん!
「やっぱり、裏でお姉ちゃん……」
「式が始まってるんです。静かにして下さい」
アリスは、ため息をつきながら舞台の上を見る。
「オメガピース」の総統が話すようなありがたい言葉を、女性校長の永山光子が話しそうだ。
「よし……。
椅子のトラブルを私だけで終わらせたくない」
――一同、起立!
ありがたいお言葉、終了。
――着席!
号令がかかった瞬間、今度はアリスが右隣の椅子に着席する。
膝の上に、他の生徒のお尻がズドン。
「アリス……!
席間違ってるよ!」
鬼のような形相で後ろを振り向く、本来その場所に座っていた生徒、
アリスは頭を撫でて笑う。
「座ったときの違和感、こんな感じかなーって、知って欲しかったんです」
そこに、担任が飛んできた。
「ガーデンスさん!
真面目な式ですからね!
ふざけないでもらえますか!」
「はい……」
アリスは、それ以後の入学式の記憶がなかった。




