2年生1学期 メロンパンで日本地理を学ぼう?④
「では、2学期の発表に先立って、アリスがこの日本の中で発見したことを発表してもらいましょう」
1学期最後の社会の授業、大出がアリスを前に呼ぶ。
片道だけ送り届けた萌が、興味ありげに前を見る。
息を吸う。
「私は、神奈川県海老名市と、厚木市に行ってきました。
授業中、メロンパンの寝言を言ったので、メロンパンの聖地・海老名です。
高速道路のサービスエリアでは、美味しいメロンパンが売っていました。
私は、いっぱい食べました。何個食べても飽きません」
「まさか、これで終わりじゃないでしょうね」
アリスをメロンパンの寝言で注意してから、授業中何度となく食べ物が出てくると怒っていた大出。
今回も釘を刺す。
だが、アリスはすぐに首を横に振った。
「でも、どうしてここでメロンパンが売られているのでしょう。
それは、ここが東京から最初のサービスエリアで、車が多く走るからです。
少し小腹が空いてきたところで、メロンパンは最高です。
ちなみに、製造元はここ埼玉だそうです。
小麦が結構とれるところで製造するのも、農業の分布を考えると合っていると思います」
バーニングカイザーの舞台が埼玉だと、スピンオフの作品で言われたくなかったぞ。
本編では、自治体名をさんざんぼかしてきたのに。
「次に、私はタクシーで街中に向かいました。
周りが工場ばかりなのに、相模川では鮎が釣れるそうです。
山が近く、綺麗な水が流れているからかも知れません。
あとは、このあたりの山々では畜産も行われています。
なので、ホルモンが美味しい店もありました」
「B級グルメで有名なシロコロホルモンだ!」
クラスの生徒がすぐにツッコミを入れる。
「そうです。
本当においしくて、ホルモンなのに中身がとろけそうでした」
アリスの舌が、不自然にじゅるりとなる。
にやついた顔で、アリスは原稿の次のページをめくった。
「というわけで、このあたりは鮎と豚がいっぱいいる場所です。
だから、こういった動物たちを大事にしようということで……」
アリスは黒板に、7文字の平仮名を書き始める。
「いきものがかり、という文字を私は結構見ました。
この場所には、生き物係がいるんです!
それもいっぱいいそうです」
「ん……?」
クラスの多くの生徒が、生徒同士で顔を見合わせる。
アリスは構わず発表を続けた。
「私は思いました。
こんなに生き物が大事にされている場所です!
生き物係が、ウサギとかニワトリとか絶対飼っています!
夏休みにもう一度行って、いきものがかりを買収します!
動物食べ放題!」
アリスは、いきものがかりを何だと思ったのだろうか。
地元民が泣くぞ。
「段取りとしては完璧ですが……」
政見放送みたいな終わり方の発表に、まばらな拍手が教室に鳴る中で大出が教卓に向かい出した。
「オチがあまりにも酷すぎますね。
というより、授業の発表でこんなオチを聞きたくなかったです。
ちゃんと、そんなアーティストがいると調べてから発表してください」
「はぁい……」
アリスが席に戻ると、大出がため息をついた。
「先生も、いきものがかりを学校の生物係だと思っていた頃があります。
君たちが生まれる前からいたアーティストなので、君たちはそんなことはないでしょう。
ただ、初めてのことを聞いたときは、いろいろな知識が邪魔をして間違って覚えてしまう。
だからこそ、アリスのように異世界で学ぶ人には気付いて、もしかしたらこの世界に13年、14年と暮らしている君たちが見過ごしてしまう光景って、あると思います。
そのことに、いま先生が教えられました」
突然、大出が拍手を始めた。
それにつられて、2年2組の全員がアリスに拍手をする。
「信じられない……」
アリスは大出に頭を下げながら、静かにそう呟いた。




