1年生3月 アリスを守る者
「さて、『オメガピース』から来たアリスも、今日で1年生が終了となるわけですが……」
修了式の朝、アリスはホームルームが終わり次第廊下に呼び出された。
嫌な予感しかしない。
「もう一度1年生をやるんだったら、私全然かまわないですよー」
アリスは、にっこりと笑いながら担任に告げる。
先生は即、首を横に振った。
「2年生に上がれるほどの学力ではないということが、5回の定期テストの結果分かりました。
そこで、この後……」
「あ……、はい……」
え――――っ!
「いや……、いや……!
そんな形で留年なんて嫌です!
さっきの、もう一度1年生をやりたいって話、取り消してください!」
「アリス。
あなたは、組織で生きている大人じゃないですか。
上からの命令に従うのが、大人ってものです」
「たしかに……」
『オメガピース』でも、トライブやアッシュからの命令は絶対である。
一応、だが。
「でも……、私の上司はソードマスターです。
担任の先生じゃありません!
だから、私は勉強ができないから留年、なんてことを言う先生には従いませーん!」
「ぬぁにぃ~!」
担任が、アリスの襟首を掴む。
「いじめですよ、先生。
私の後ろには、『オメガピース』という強い戦士ばっかりの組織がいますから」
当然、こんな生意気なアリスに力を貸すような組織ではない。
「モンスターペアレントかどうか知らんが……!
アリスは、勉強ができてないって言ってるんです!
やり直しで入ってきた中学なんて、義務教育じゃないですから」
「中学校を義務教育と言わない先生がいまーす!」
「もういい!」
担任がアリスを突き飛ばした。
反対側の柱に叩きつけられそうになった時、アリスの後ろに手が伸びた。
「どうしたんだ?
落ち着いて言ってごらん」
「え……」
オレンジ色の髪が、アリスの肩に触れる。
声のする方に、アリスは目を向けた。
1年3組の神門煌だった。
「えっと……。
あなたは、たしか……、バーニングカイザーに変身できる人……」
「そう。
先生が突き飛ばすなんて、俺は許せない!」
「あっ! そうなんですか!
もしかして、正義のヒーローって言いながら、悪いコの味方をしてくれるんですね」
煌は、アリスの前に立ち、両手を広げた。
「先生。
いくら口が悪い生徒だからって、突き飛ばすのは問題あると思います!」
「どうして神門がしゃしゃり出てくるんですか。
私は単に、アリスが成績不良でどうしようもない生徒だから怒りました。
それに、そのことを言ったら生意気な言葉を返してきたんです。
人間として、怒りたいですよ」
「投げ飛ばしていい生徒なんていません」
うわぁ……。
すごくカッコいい……。
アリスが、煌の背中から顔を覗かせる。
そして応援のように手を叩き出した。
「ファイト! キラくん!
ファイト! キラくん!
わあああああああ!」
誰が怒られていると思っているのだろうか。
「やめろって。
アリスだって、少しは反省したほうがいいよ。
突き飛ばすようなことをしたの、アリスなんだからさ」
「すいません……」
アリスは、煌を見上げてため息をついた。
それを見て、担任の先生がアリスの手を引っ張った。
「アリスに、一つだけ言っていいですか。
話は最後まで聞きなさい」
「はい……?」
アリスは担任の前で固まった。
「私は、留年なんて言葉、一言も言ってないですからね。
3月いっぱいまで、補習授業を受けてもらいます。
つまり、テストでできなかった問題の解き直しですね」
「あ……、はい……」
担任は、今度は突き飛ばさなかった。
アリスはとんでもない勘違いを担任にしたまま、1年生を終えようとしていたのだった。




