2.
今日はお祖父さまがセッティングしてくれたお茶会の日だ。私は少しだけ気合いを入れて準備する。出かけようとするとマリアが上機嫌で話しかけてきた。
「あら、お姉様もお出かけですか? 私も今日はアルフレッド様とお約束しているのです。これからお迎えに来ていただけるんですよ」
きっと、私に見せつけるためにわざと呼んだのね。
アルフレッドも婚約者を取り替えて早々にこの屋敷に来るなんて気まずくないのかしら。
私に会ったらなんと言うつもり?
「マリア、そんな風に言ってはお相手のいないソフィアがかわいそうよ。ソフィアがこれから出かけるのもお茶会でしょう? 結婚相手を探すのに必死なのだわ。マリアより良いお相手を探すのは大変なのよ。お迎えに来てくれる人がいないというのはさみしいわねぇ」
私の着飾った装いを見てにやにやと小馬鹿にしてくる。本当に嫌みな母娘だ。
確かに私は割と頻繁に外出している。だが、男探しのためにでかけているわけではない。服飾店の経営に携わっているからだ。元々は私の母が責任者をしていたが、一五歳になってからは私も携わらせてもらっている。いずれ私が責任者になる予定だ。これに関してもこの二人は良い結婚が望めないから仕事をするしかなくてかわいそう、と馬鹿にしている。
面倒なので余計なことは言わないけれど。
「申し訳ありませんが、約束の時間に遅れてしまいますので失礼させていただきます」
私は不毛な会話を切り上げて出発することにした。アルフレッドと鉢合わせるのも嫌だもの。未練はないけど、マリアたちにあれこれ言われるのが面倒だ。
――――
指定された場所に行くと、すでにお相手とお祖父さまはお茶を飲んでいた。遅れてしまっただろうか。
「すみません。お待たせしてしまったでしょうか?」
「いや、時間通りだよ。ソフィアが来る前に色々と話しておきたくてね」
お祖父さまは笑顔で立ち上がってお相手を紹介する。
「まずは紹介しよう。ソフィア、こちらがヘルムート殿だ」
紹介されたお相手は思わず見とれてしまうくらい素敵な人だった。
――――
正直、こんなに気が合う人がいるなんて思わなかった。それくらいお茶会はとても楽しかった。ヘルムート様の家はとある布を扱っているらしく、様々な布に精通していた。しかもこの布、私が今一番気に入っている布で私の店でも評判だ。この国でもちょっとした流行になっている。
図々しくもマリアも義母も自分の店のものとして自慢しているらしい。あなたたち、全く関係ありませんけど?
お茶会のすぐあと、お祖父さまを通して婚約の申し込みがあった。背も高く、見た目も格好いいけれど、中身がとても素敵だ。話も合うし、とても紳士的な方で夢のような時間だった。私のお母様が平民なのも気にしないと言う。
ものすごく嬉しい。こんな方と結婚できるなんて。
ただ、家族に知られては邪魔をされるかもしれない。直前まで伏せておく必要があるわ……。
直前まで家族に結婚のことを内緒にしたいと言うと、お祖父さまたちは快く賛成してくれた。私たちは家族に内緒で結婚に向けて粛々と準備していく。