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何かがおかしい……?

 二人でリチャード先輩の寮部屋に向かう。


「リチャードは医療棟にいるのか」

「それが、大丈夫の一点張りで……今は部屋で寝てる……」

「は? 肝心のディアが入れないではないか」


 大人しく医療棟に行けよ。なんて内心ツッコミたくなる。


「頭を打ったわけではないから運ぶことは可能だと思う……。それに出血個所は見当たらない。けど……」

「拒むのか」

「うん……。何故か外に出たがらないし、怪我の詳細も教えてくれなくて……」


 強制的に眠らせないと外には出せないわけか。でもそれでは怪我が悪化するかもしれない。なにせ、彼の傷の重さを図りあぐねているから。

 ディアを連れてきた方が早い気がするけれど、出来る事ならむやみに男子寮に入らせたくはない。

 悪化したとしても怪我も治せば済む。そういう思いに至った。


「リック、入るよ」


 ハイドはそう声をかけると返事を待たずに扉を開けた。

 一個上の階。どの部屋も間取りは変わらない。


「ハイド……」

「ごめん、どうしても心配で……」

「そんなことはどうでもいいから傷を見せろ」


 非難を秘めた物言いに柄にもなく怖気づくハイドさん。そういうところが見てられないんだよな。

 しかして、俺が入るまでハイドさんに同伴者がいることに気が付かないほどなのだ、弱っていることなど明らかである。いつもならば風魔法の恩恵で周りの音が聞こえやすいはずなのだから。それにも個人差はあるが、以前からの行動でリチャード先輩の恩恵は同属性魔道士と比べても強かったはずだ。


「お呼びじゃないから出ていってくれるかな?」


 笑みの奥に怒りを潜ませてそう言う。

 そんなに体調に変化が出ているのにおいそれと帰るわけにはいかない。

 なにせ俺はハイドさんの頼みでここにいるのだ。リチャード先輩に何を言われようが優先すべきはそちらではないのだから、そのまま何もしないで帰るわけないじゃないか。


「そんな強がり、俺には通用しないがな」


 目を見開いているリチャード先輩のことなんか気にも留めず、俺は頼まれたことを成し遂げるべく行動に移す。


『お前の全てを奪い尽くせ』


 剥奪魔法。物でも記憶でも意識でも、何でも奪うことができる魔法。ただし、その魔法付与の対象者の所有物にしか適用されないが。

 今はこの魔法でリチャード先輩の意識を奪った。つまりは強制的に眠らせた状態。これで簡単に担ぎ出せる。


「リック……? お前、これ大丈夫なんだよな!」

「大丈夫だ。気を失っているだけで何の問題もない」

「っ。わかったよ……」


 まだ気は抜けない。ディアに頼んで治してもらうまでが頼まれた範囲だから。


「こいつ本当に怪我しているのか?」


 眠らせた後に念のため軽く診察をしたのだが、思い当たるような場所に怪我がない。打撲も捻挫もかすり傷も。何もない。

 怪訝に思いつつも、雑に肩で担ぐとそのまま部屋を出ていく。

 今は食堂が閉まる時間帯。ディアは部屋にいると思われるが、現時刻での取次はできるのか、それがわからない。兄妹であるから、少しの時間なら大丈夫か。

 と思いたち、リチャード先輩をそこら辺のベンチに寝そべらせ、そこで待つようハイドさんに言いつけた俺は急ぎ女子寮に向かう。

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