追憶
夕食時にそわそわした感じで落ち着きのなかったメアは、今は俺の部屋で聞きたそうにうずうずしている。そんなに聞きたいことか、俺の過去。綺麗なものではないから、今更ながらやめた方がいいかなんて思ったりもする。
「で、どんな街に行ったことがあるの?」
「行ったというか、俺が幼少期を過ごしていた場所になるんだ」
「え? 君ってベイリー家の執事の子供じゃなかったの?」
「は? もしかしてそう聞いていたのか?」
その言葉を聞いて、メアは驚きをにじませる。
予想外の反応に俺も驚きと疑問を浮かべる。
「聞いていたというより、そういう話を耳にしたって感じだね」
ふむ、王子という立場で耳にしたというより、噂で耳にした程度だろうな。俺自身、養子であることは隠しているのではなく、聞かれないから答えていないだけなのでちゃんと調べれば俺の出自くらいは容易に知れるだろうし。
「そうか。俺はアークさんの養子であって実子ではない」
「引き取られたって感じかな」
「そうだ。俺がエーファ様に保護されたときには中級魔法を使えたから、貴族としては妥当な判断だろう」
中級魔法というあたりでメアの顔が驚愕から歪んだ。学校で習うよりも前に使える者は一握りしかいないから。驚くのも無理はない。それを知ったとき、俺だって驚いた。
「ちなみにそれは何歳の時?」
「12歳」
「誰かから習ったの?」
「いいや。独学」
「えっと。独学で中級魔法を行使したの」
「あぁ」
「何で?」
珍しく素っ頓狂な声を上げている。新鮮味があって面白い。
次の俺の言葉でもその顔や声音はころころ変わっていく。
「俺のいた街が暴漢に襲われたから」
「え?」
「誤解しないでほしいからあえて言うが、その時の俺は微塵も助けようとはしなかった」
きちんとその時の俺は俺ではないと示す。
「えっと……」
「その時の怪我が原因でリヒトは俺を思い出したからな」
「そういうこと……なら何で?」
「ディアが助けてと懇願したからだろう。だが、それも些細な気まぐれだった」
「それで君、いいや、リヒトはどうしたの?」
「襲われる少し前に魔導書らしきものを手に入れていたから、暴漢と戦う前に魔法陣と様々な等級の魔法を行使した。暴漢には物理的攻撃で殲滅した」
「えっと……、リーが思い出したきっかけは?」
「生き残っていた残兵に背中を刺されたから」
「えぇっ! 刺された……? それは大丈夫だったの?」
「いや、全然。めちゃくちゃ痛かったし、血を流しすぎて気絶した」
いつもは綺麗な色をともしている目を大きく見開いて驚きを隠せていない。過ぎ去った過去のことなのに焦燥からか常時上がっている口角も引きつっている。
なら何で助かったの、とでも言いたげな不安そうな顔。さっきから何で、が多いな。
「ディアが覚醒して治癒魔法で救ってくれただけだ。その時、俺を拾ったのがエーファ様だった」
「結構波乱万丈だね……。さっきの話に戻るけど、物理的攻撃ってことはリーも実践得意?」
「わからない。戦ったことなどないからな」
「それもそっか」
「他に何かあるか?」
「ううん。今のところは大丈夫。君の規格外さが結構分かった気がする」
思ってもみなかったその一言に思考が引っ張られる。
「規格外? 俺はそんなに普通じゃないのか?」
「うん、希代の魔道士たちより、魔力や魔法運用力で劣っていても一般的な魔法使いからしたら普通じゃないかな。それにリヒトが脅威になりえるという話も信憑性が出ちゃったね」
「そうか」
「多分、実際に戦ったらわかるよ。君と同等のレベルのものはこの学校にほとんどいないって」
「そこまでか?」
「うん、そこまであるね」
俺、一度もリヒトの力を普通だと思ったことはなかったけれど、言われてみると思っている以上に辛い。規格外ってことはリヒトが何らかの理由で暴走したらかなりヤバいってことだし、裏切るなんて以ての外。
「僕は対等に戦えると思うよ。だから、そんなにしょげないでよ」
「しょげてはいないが、……そうか」
「うん。僕もリーに置いて行かれないよう頑張るから、君は気にせずに成長するんだよ」
俺が手を抜くと思われているのか、そう釘を刺される。でも、人と差ができてしまうのなら頑張りたくないと思ったのは本心なので反論できない。
見抜いているからこそ、先回りをして退路を断たれる。こういう時はメアの方が上手なんだよな。




