誤解が加速していく……
「ねえ、明日が約束の日なんだけど、お返事を聞かせてくれないかな?」
「あ」
ニコニコ顔のメアにそう言われた。
それが話題にあがったのが月曜日。今日は華の金曜日だ。忘れていたとはいえ、五日ほど放置してしまっていた。一緒に夕食を食べていたんだから、その時にでももう一度確認してくれればよかったのに。まあ、忘れてた俺が悪いけど。
俺が呆けているとディアが口を開く。
「お兄ちゃん。メア様とお約束しているの?」
「うん、そうなんだ。一緒に市井に出掛けないかなって」
「そうだったんですね。いいじゃないですか。楽しんできなよ、お兄ちゃん」
メアは知らないんだよ。ディアのしている誤解を。だから、ディアの前でそんな勘違いを加速させるようなことを平気で言えるんだ。
「い……」
「いいわね。そうよ、リヒト。行ってきなさい。明日、私たちは女子会をするからお供はいなくても結構よ」
否定の言葉を紡ごうとしたのにエーファ様の言葉で掻き消えてしまった。エーファ様はディアの誤解を知っていて言っているのだ。不愉快極まりない。友達だとわかっているくせに俺を揶揄えるからと全力でディアの方にのっている。
メアはというといいよね、みたいな感じでその綺麗な顔であざとさ全開のお願い顔。
「はー。わかったから、その顔止めろ」
「ありゃ、どんな顔?」
「その綺麗な顔であざとさを演出するなってことだ」
ディアと明日の話をしようとしていたエーファ様は一瞬にしてこちらを振り向いてきた。
え、俺、何かした。
「え」
「え?」
ディアも固まったと思ったら、メアまで固まった。
え、ほんとに何なの。
「お兄ちゃんの綺麗は言葉の重みが違うね」
「は?」
「そうね。ディアナに同意するわ」
え、まさかこいつらがこんなになってるのって俺がメアを綺麗だって言ったからか。
それならば、打開策は一つある。メアだけを特別扱いしているように見えたからというのなら、エーファ様もディアも同じように扱うまでだ。
「エーファ様もお綺麗ですよ」
「あ、ありがとう」
「ディアは可愛いな」
「う、うん。嬉しい……」
エーファ様もディアも顔を赤らめて照れている。俺ごときの賛美で喜んでくれるなら、有難い。
そういえばあまり他人の外見を褒め称えたことなかったということを思い出す。だから俺の褒め言葉がそんなに意外だったのか。内心では可愛いとか綺麗だとか思っていても、口に出すことはあまりなかったかもしれない。これからも多用はしないが機会があれば褒めさせていただこう。
「じゃあ、リヒトのお世辞も聞けたことだし私たちは帰りますわね」
「お兄ちゃん、メア様。さようなら」
「良い週末を」
「お世辞ではないですから。じゃあな」
お世辞ではない。エーファ様はずっと綺麗でいらっしゃる。彼女の微笑みは皆を魅了する。ディアも可愛らしく、愛嬌がある。人見知りなきらいがあるのもそれがより一層、その可愛らしさを底上げしている。これらは客観的に見ても紛う方なき事実だ。メアに聞いてもそう答えてくれるだろう。
二人が去ったことで教室の人口もかなり減った。有体に言えば、ディアに付いて行ったということだ。誰も四大貴族に名を連ねるエーファ様とその友人であるディアの話の邪魔をしてまで声をかけに行くようなことはしない。そんな奴がいたら家の恥とさえれるからな。女性、二人きりでもそこは安心できる。二人とも強いし。




