運命(加筆してます)
区切るところを間違えたので少し足してます。それより上は訂正なしです(-_-;)
「お初にお目にかかります。私はベイリー家長女、エーファと申します」
彼女が部屋に入った瞬間、部屋の華やかさが上がった。夜空の美しい藍色を閉じ込めたような髪。黄色い瞳は夜空を照らす星々を彷彿とさせる、綺麗な色合いだ。こんな美少女はどこを探してもいないと豪語できる。それほどまでに人を魅了させる。
その可憐なお嬢様は美しい所作でスカートの端をつまみ持ち上げる。そして深々とお辞儀をし、自己紹介をしている。
背後には妹もいるが、今はこの少女から目が離せない。好きとか嫌いとか関係なしに、人の目を奪う、そういうお人だった。
「……俺はリヒトだ」
「リヒトさん、でいらっしゃいますね。お目覚めしたと聞き、安心致しました」
「リヒトでいい。敬語も要らん。うっとおしい」
ただ高貴な人なのに俺みたいな人に敬語を使っているから、使わなくていいという旨を伝えたかっただけなのに。もう黙っていた方が安寧なのではと思いかけるも、まだまだゲームは序盤も序盤。そもそもスタートしてるかさえ怪しい。そんな中、下手して路頭に迷えば、悪役に返り咲くほか道がなくなるかもしれない。それは御免被りたい。
「そう? ならお言葉に甘えて、リヒトと呼ばせてもらうわ。リヒトに聞きたいことがあるのだけれど、体調は大丈夫?」
「粗方はな」
表情筋が動いている気配がない。もしかして俺のこれは睨んでいる表情なのか。そうだとしたら、無礼以外の何でもない。最悪、牢獄行きの所業。
彼女は気にするでもなく、俺の寝ているベッドのそばに椅子を二脚用意するとそこに二人で座った。そして一問一答形式の面談のような何かが始まった。
「それなら遠慮なく。貴方は魔法が使えるの?」
「見よう、見まねだがな」
「何の属性使いなの?」
「……闇属性だ」
「妹さんは光属性だそうよ。回復魔法で貴方を癒した」
思いがけない言葉に僅かながらこの顔も目を見開く。この顔も少しは動くらしい。
隣に座る妹は照れたように笑っている。
「それでは次ね。貴方は何故今回の騒動が起きるとわかったの?」
「索敵魔法に引っかかっただけだ」
「何故助けたの?」
「こいつがそう言ったからだ」
必要最低限しか言わないらしい、この口は。
でも俺が答えを頭に浮かべ、言葉にしようとするからか、かなり素直に返答している。端的ではあるものの、意思の疎通は好感度と引き換えにだが、ある程度はできそうだ。
「そうなの? ディアナ」
「あ、はい。そうです、お嬢様。お兄ちゃんと逃げた先で街が襲われてて、私、気が動転してしまってて……。お兄ちゃんに助けを求めたんです。街のみんなを助けてって」
一度、頷くとまたも質問を切り返してくる。
「では聞くけど、何故貴方は妹さんの望みを聞いたの?」
「そうしなければならないと感じたからだ。別にあいつ等がどうにかなったところで俺に関りはないが」
「貴方、妹さんはお好き?」
「…………」
俺は押し黙る。ディアの前で何か口走るわけにもいかない。本人に聞かせるほど酷なものはないし、仮令、内心で好意的に思っていても変換されてしまっては意味がない。
ディアの方は向けない。どんな顔で見ているかがわかれば傷心してしまうかもしれない。泣かれたらさらに最悪だ。
「ディアナ、お兄さんにお茶を持ってきてあげて。何もなしに問答するのも無粋だわ」
「あ、はい。わかりました。お願いしてきます」
飛び上がるように椅子から降り立つと、急いでドアの方へ向かっている。心なしか悲しそうな顔をしているようだ。
これで少しは楽にできると思ったのも束の間。
「そうそう。ディアナ、そんなに落ち込まなくていいわ。貴女はお兄さんにちゃんと愛されているから。あんなに思い悩んで答えを出そうとしていたのだもの」
いったい何を言い出すかと思えば、見当違いも甚だしい。確かに好意的ではあるが、思い悩んでいた方向が彼女の想像と違う気がする。
「でも答えないのは……」
「こういう質問には大抵の人が答えをすぐに出すの。でも、お兄さんは黙っていた。私の個人的な意見なんだけど、お兄さんは軽い人じゃないのね。だから、好きの一言さえも躊躇してしまっていた。ねえ、そうでしょ」
「そうなの? お兄ちゃん」
これは否定するのは絶対にダメだ。流石に人として最低だ。
俺がこうして困っている間も、この顔は真顔だった。事もなげに。
「私に図星を突かれて慌てているのだわ。そっとしておいてあげて」
「そ、そうですね。では、私はお茶を取りに行ってきます」
更なる誤解が追加されてしまった。
だが、もう妹もいない。シスコンとみられるのは不本意だ。反撃をしようではないか。
「何を言っている、貴様。勘違いも甚だしい。さっきの何を見たら、そう解釈されるのだ? お前の眼は節穴か」
「それは私の言葉よ、リヒト。何を言っているのかしら。貴方より子供のディアナでさえ、ちゃんとした言葉遣いをしていたわ。貴方、ここが何処かわかっておいでで? そのままだと即刻牢屋行きよ」
今ここでそこに言及するの、という恐々とした疑問が浮かぶ。
この口調は俺の頑張りでどうにかできるものなのかがまだよくわからない。だから、治せと言われてもできないので、ここでもうすでに無駄に死亡フラグが出ている気が。どう転んでも、情状酌量の余地なしだと思う、俺。
「何を今更。俺を勝手にここに連れてきたのはそっちではないか。今までの話を聞くに、俺の怪我はディアが治したようではないか。なら、俺はここにいる意味はない」
嘲笑うかのような笑み。12歳のする顔ではない。
だが、そんな挑発にも乗らずに、彼女はただ淡々と落ち着いた声音で応答する。
「貴方に意味がなくとも、ディアナには必要だと言ったらあなたはどうするの?」
「置いていけばいい」
また勝手に口が動く。この口は短気なんだよね。とてつもなく。
先が思いやられるよ。
「まだあの子は10歳ではなくて? そんな子を放って、何処に行くの」
「俺だってまだ12歳だ。大して変わらないが、一人でやってこれた。俺にできてあいつにできないなんておかしいだろ」
「彼女は女の子よ。貴方とは違う」
口はどんどん動いていく。
「浮浪児に一人で生きてきた女はいた。それに何故、俺に押し付けようとする」
「貴方が彼女のお兄さんだからよ」
「血の繋がりなんて所詮、偽りのものに過ぎない」
「なら何故、貴方は今日までその妹を守り育ててきたの?」
その言葉に内心ではっとする。
原作のリヒトは損得勘定で動くような人間。自分に有利な方、有益な方に付いて行く気質がある。そんな彼が妹は見捨てずに、ここまで導いてきた。
それに理由があるのではないかと疑ってしまう。
「彼女が特別な存在だって気が付いていたでしょう?」
またも会話が噛み合ってない。
それに何故俺の口が勝手に動くのか。
「知らん」
「隠さなくてももういいのよ。彼女の存在は私の家族が保護したから、もう安全なの。危険にさらされることもないわ」
本当に身に覚えがない。
「知らん」
「知っているのでしょう、彼女が巫女だと」
“巫女”というワードで俺の動きが止まる。
「私は貴族だから、彼女を保護できるわ。それにディアナは貴方と離れたくないと言ったの。貴方は選べるの、どんな形でディアナを支えるか」
「…………」
黙っている俺に何を思ったのか、言葉を続ける。
俺はただ、リヒトの妹がヒロインである巫女だって知らなかったから戸惑いを隠せないでいるだけなのに。
巫女はみな、光属性を持っている。妹が魔法をつかえるなんて聞いていない。それにリヒトが魔法を使ったときに、行使できることに驚いていたのだから、ディアが魔法をつかえると気が付いたのは俺が気を失っている間の話になる。
初期の六華の軌跡は始める際に相手を決める乙女ゲームであったが、人気を集めたことでバージョンアップし、一般的なストーリー性があって進めていくにつれ、相手が決まっていくものに変わっていったのだ。だから、初期の主人公は各個で生い立ちや外見に差異が見られた。その初期の作品も幼馴染がしていたが、そのどのルートにも悪役リヒトの妹に巫女がいるなんて設定は存在しなかった。話に出てきたことすらない。加えて、どのスチル絵にも妹のような黒髪で桃色の瞳を持つものはいなかったはずだ。
「ディアナはこれからたくさんの試練にぶつかるはず。その時に貴方がそばにいたらどんなに嬉しいか、味方がいることがどんなに心強いか、わかりまして? 私は貴方に同伴していただきたく存じます。私にできることはさせていただく所存ですわ」
「……」
「貴方のそのわざとその傲岸不遜な態度をとっていることは承知しているわ」
その言葉に俺は驚いた。今までのあの無礼な言葉の数々が俺の本心ではないと言っているのだ。確かにそうなのだが、先刻までの会話の中でそれを裏付ける何かはなかったはず。根拠などないはずなのに、彼女は確信を持っているかのようにそう言うと慈悲深い笑みを浮かべた。
「なんで」
「あら、ようやく素で話してくれるのかしら?」
俺は今、何て言った?
「何故」ではなく「なんで」と言ったのか?
リヒトは傲慢な性格からか砕けた口調は使わずに、必要最低限かつ端的に言葉を発する。彼は聞き返すときなどに「何故」とは使っても「なんで」とは十中八九使わない。というかゲーム内でもそんな描写を見たことなどない。
「そんなに驚いて、さっきまでの刺々しい表情が嘘みたいね」
顔に手を持っていく。先ほどまでの俺ならば触ったところで変化は感じられなかっただろうが、今は驚きから顔を引きつらせ、目を見開いていた。
「あら、無自覚なの? それとも演技を看破されてスイッチが切れっちゃったのかしら? それなら申し訳ないわ」
「エーファ様……」
敬語も使える。今までのお前や貴様と彼女を呼んでいたはずなのに敬称で呼べている。これはもしかして、彼女に悪役補正はもう効かなくなったのではと仮設をたてた。
「何かしら?」
彼女は俺の動揺に気づいて、安心を誘うような笑みを携え、声音も優しく心がけて声をかけてくれる。
「俺はその、信じられないかもですけど、あの口調は俺の意思ではないんです……。俺はそんな不遜な態度をとりたいわけではないのに、脳内で思っている言葉が勝手に変換されて口から出るんです」
「そうだったの? 大丈夫よ、私は気にしていないから」
もういっそのこと打ち明けてしまえと俺は思った。もう俺一人で抱えるには不可能だった。信じられなくてもただ伝えたかった。
「それに俺、今それどころではなくて……」
「どうかしたの?」
「これも本当に突拍子もない話なんですが、俺、前世の記憶をもっているらしいんです」
BLはまだまだ先です。
もう少ししたら現代編に戻るかと((




