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メシアの登場

「お兄ちゃん!」


 扉が乱雑に開け放たれる。

 二人ははっとしてそちらに視線を移す。救世主が現れたのだ。


『陽光の如き恵みよ その光で烏夜(うや)を照らせ』


 その少女は、開口一番、詠唱を唱える。

 しっかりと立ち、前を見据え、兄であるリヒトの苦痛に歪む顔から眼をそらさずに。


『朗々たる月華の仁慈により 大いなる冥利を彼のものに与えなん』


 もう一つの魔法詠唱を終える。

 すると今まで手を振り上げ臨戦態勢をとっていたリヒトが、ふっと気を失うようにして転がる。


「危ない!」


 気を失った拍子にベッドから落ちかけているリヒトを咄嗟に抱え込むようにして抱き留める。間一髪、間に合った。

 様々な出来事がとめどなく起こり、その場にいた皆疲弊していた。

 メアも例外ではなく、リヒトを抱いたまま気が抜けてしまう。リヒトごとベッドに倒れこむも、まだメアの手の中にはリヒトがいた。そっと顔を覗くと、学校では見たことのないようなあどけない寝顔を浮かべている。

 リヒトの安らかな寝顔を見ると何とも言えない気持ちが湧き起こり、メアは自分の胸に抱かれている彼を静かにただ強く抱きしめた。


「あの、貴方は誰ですか……? まさか……」

「あ、ごめん」


 先ほどの言葉から彼女がリヒトの妹であると即刻判断した。そしてそのまさかに続く言葉も想像がついてしまう。

 慌てつつも優しくリヒトを再びベッドに寝かせる。

 そんなメアを見かねてか、エーファはディアナに語り掛ける。


「ディアナは知らなかったわよね。彼はメア・エドガー様ですわ。この国の第二王子ですの」

「え、あ……。知らなかったとはいえ、無礼を……」


 青天の霹靂。まさかこんなところで一国の王子と相対するなんて思っていなかったディアナは口をパクパクさせる。そして状況の理解が追い付くと勢いよく頭を下げ、メアに謝罪をする。


「あぁ、気にしなくていいよ。緊急事態だったんだから」


 本当に気にしていないのだが、ディアナは焦りであわあわとしている。このままでは進まないので、エーファは話を戻す。


「そして彼女がリヒトの妹、ディアナ・ホールですわ」

「は、初めまして。兄がいつもお世話になっております」

「僕の方が君のお兄さんにはお世話になっているんだ。会えて嬉しいよ」


 和やかな空気が流れる。


「リヒトの妹が巫女だったなんて知らなかったよ」


 一瞬にして凍り付いた。

 いや別に王子に知られていけない話ではないのだが、機密情報ではあるのだ。エーファは父が国王に謁見した際に報告したところ、秘密にしておくよう言われたことを知っている。勿論、ディアナも知っている。


「な、何故……」

「え、だって君、入ってきた瞬間に浄化魔法を使ったじゃないか。あの詠唱は上級魔法。巫女とされるものしか使用したという記録はないんだよ。知らなかったのかい?」


 あたかも当たり前であるように言うメアに、エーファもディアナも言葉が出ない。

 王子だからこそ巫女に関する知識はあった。王城にある本は国王の許可があれば自由に閲覧できる。その上、メアは魔法の適正から鑑みて、今回の厄災の討伐者に内々に決まっていた。だから巫女について調べるのも別段不思議なことではない。

 不思議そうに見てくるので我に返ってディアナは言う。


「知りませんでした……。入った瞬間に部屋の中が真っ黒で、この魔法を唱えなきゃって必死で……」

「部屋の中が真っ黒? それはどういうことかな?」

「そのままの意味ですよ……? まさか見えてないとか言わないですよね……?」


 慌ててエーファの方に顔を向け、必死に訴える。


「えっと、そうね。今と変わらなかったわ」

「も、もしかして幽霊なんですか……? 私にしか見えないみたいな……!」

「ちょっと落ち着きなさい。私の所見なのだけれど、リヒトの闇魔法の魔力が見えたのではなくて? 丁度、闇魔法を行使しようとしていたところでしたの。相反する光属性の貴女なら何か感じるものがあってもおかしくはないわ」


 幽霊を怖がり、顔を蒼くしてエーファに詰め寄るディアナ。そんな彼女を宥め、自身の意見を伝えて一先ず安心させようとする。


「えっと、僕も光属性持ちなんだけど、何も感じなかったよ」

「え、メア様は光属性……二属性魔法使いってことですの? しかも希少属性持ち……」

「うん、そうだよ。披露する場面がなかっただけで、隠してたわけではないんだけどね」


 またも脱線した。恐る恐るだが、ディアナも声を上げる。


「あの、何も感じなかったとは? 少し暗かったとも思わなかったのですか? あんなに真っ暗闇だったのに……」

「暗かったと言えば暗かったかもだけれど、真っ暗ではなかったな。それぞれの顔がはっきりと見えていたからね」


 メアの共感を得られず、当惑する。

 言うなれば闇の霧のようなものが浮遊していたのだ。それも数センチ先さえ見えないほどに濃い霧が。


「では、あれは何だったのでしょうか……?」

「リヒト本人に聞いた方がいいのではなくて? あの子、自分の属性に関しては執拗なくらいに調べてたわ。それでも調べ足りないみたいで、何もわからないって言っていたけど、少なくとも私たちよりは手がかりを知っていると思うの」

「そうですね……。やはり、今はお兄ちゃんの回復待ちですよね……」


 優しい眼差しでリヒトを見る。自分の兄が荒れている姿を見てもなお、ディアナは彼が好きで大切だった。唯一の家族で、唯一の味方だったから。守ってくれていた日々を決して忘れたりなんてしないから。


「次は昼休みだし、最悪、授業を休むことになっても僕は一向に構わないよ」

「私もリヒトが最優先ですもの。授業なんて知ったことではありませんわ」

「私もです。部外者ですけど、お兄ちゃんの問題が終わるまでは居座ります」


 三人の意向は一致した。リヒトへの強固たる意志が感じられる。に三人にとって、それほどにリヒトは大事な存在だった。

やっと妹ちゃんが出てこられた。ここで出さなかったら当分出られなかったので急遽予定を変更して投入。なのでストックが全然ない()

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