覚醒、違和感そして(修正済み)
きるところ間違えました。。。。既に修正済み。
「そうそう。その心意気だよ」
メアに励まされ、エーファの意思は固まった。父にも現状を伝え、助言を得ようと思い、水特有の連絡魔法を行使する。
『清泉の縁よ 巡り廻って回流せん』
桶に張った水が波打つ。
何度目かの漣が起きると水面の揺れが音となって返ってくる。
[どうかしたのかい? エーファ]
その音は紛れもなくエーファの父親の声だった。
「お父様。ご無沙汰しております」
「レオン様、初めまして。僕はメア・エドガーと申します」
[メア君……。二人してそんなに慌てて、何かあったのかな?]
「実は、リヒトが倒れたんです。原因は睡眠不足と栄養不足みたいなんですけど……」
[なるほど。大体は察したよ。うん、わかった。今からそちらにディアナを連れていくから。今どこにいるの?]
リヒトについて何か事前に知っていたのか、理解がとても早く二人して面食らう。
切羽詰まっていたエーファはディアナの名前を聞き、またも驚いてしまう。何故ここで彼女の名前が出てくるのか。
「え、あ、医療棟の一番手前の個室です」
[一番手前ね。わかった。兎に角、ディアナがリヒトに会えるまで、君たちはリヒトが何処にも行かないように見張ること。逃げようとすれば拘束しても構わない]
見張るのは理解できるが、拘束してもかまわないという言葉に二人して理解が追い付かない。だが、今は四の五の言ってはいられない。レオンの言う通りにしなければと二人は動き出す。
「わかりました。レオン様に従わせていただきますが、後で事の仔細についてはご説明願いたい」
[君もそこにいれば自ずとわかるだろう。だが、今回は僕の家のものが失礼した。説明を求めるのなら、そこにいるリヒト本人にすべてが終わったら聞くといい]
「納得はしていませんが、理解はしました」
不服だが、今の論点はそこではないのでメアも引き下がる。
レオンはかつてメアの家庭教師をしていたので、距離も言葉遣いも当時のままだ。ここで言い返しても意味のないことはメアもわかっている。
[そう。理解をしてくれたなら十分だよ。エーファ、すべてが終わってメア君が全てを知りたいと言ったら、催眠魔法を使って彼に全てを話させなさい]
「リヒトの意思は……?」
[今回はリヒトが悪いよ。だからそれに対する制裁さ。勿論、ディアナに聞かせるような話ではないだろうから、彼女は除外してもらって構わない]
制裁ということは単なるこじつけかもしれないが、リヒトが自分のしたことに対する対価というのならどうにもできない。もっと困難な難題を吹っ掛けられても困る。
「わかりました。お父様の意に従います」
[ディアナはもう出立させたから、数分で着くと思うよ]
「まさか、お母様が……」
[うん。まあ、送り届けるだけだって言っていたよ。それに顔が利く人を連れていかないと門前払いをくらうかもしれなかったから]
エーファの母親の魔法属性は風。だが魔力は平均くらいしかないのでめったに魔法は使わない。攻撃魔法よりも移動魔法を使うことに長けていたので、今回の役割には何ら違和感もないのだが、エーファは母が魔法を行使する姿をあまり見たことがなかったので、驚くのも無理はない。
「そうですか。了解しました。では」
[うん。エーファ、メア君。頑張ってね]
そこで水面の水紋は消えた。
最後の言葉が気になるが、後ろで身動ぎをするような音が聞こえたので振り返る。
「……え、エーファ、さま」
「リヒト! 大丈夫? 倒れたのよ」
リヒトが目を覚ました。
エーファはすぐに駆け寄るもリヒトの様子に違和感を覚える。
「……リヒト? あなた本当にリヒトなの……?」
「な、に言っているん、で、すか。俺は……リヒト、ですよ……」
寝起きで声が出ないのか小間切れに音を紡ぐ。
「リヒト。貴方、ちゃんと寝られていないの? それにご飯も抜いているの?」
「何の、ことです、か? 俺、はちゃんと、してますよ」
めったに動くことのないリヒトの表情が動いている。
目を細め、口角を上げている。他人がすれば微笑んでいるようなその顔もリヒトがすれば違和感でしかない。もっとこう、リヒトが催眠魔法にかかっているときの笑みは人好きのする愛らしさと愛嬌のあるものだった。
その笑みの面影もない。にたぁっと笑っていると言えばいいのか、兎に角、気色の悪い笑顔なのだ。
「貴方はそんな顔で笑わないわ」
「俺だって、笑います……よ」
「いいえ、リヒトはそんな顔で笑わないわ。あの日、どんなに弱っても催眠魔法にかかるまで笑わなかった。……語弊があるわね。彼は笑えないのよ。そんなリヒトがこの状況下で笑っているはずがないもの」
精神も肉体もあの日だって弱っていた。今日が特段と弱っているのなら話は別だが、そんなことはないと思う。エーファはリヒトの様子が違うこと、そしてそれがリヒトに何らかの悪影響を及ぼしているのは確信していた。
「……俺だって、笑います。笑えます。……俺だって!」
メアもリヒトの様子がエーファとは違う意味でおかしいことに気が付いた。
「エーファ! 下がって」
そう叫ぶと狼狽えるエーファの手を引く。
さっきまでエーファのいたところに先ほど連絡で使った桶が投げられていた。
「ちょっ! リヒト! どうしちゃったの!」
「……煩い」
今度は魔法を使おうとしているのか手を掲げている。
メアもエーファも危機感が増す。
先に動いたのはメアだった。
「ちょっと寝ててねっ!」
距離と一気に詰めると半狂乱なリヒトの首に容赦なく手刀を落とす。
打たれたリヒトは力が抜けるようにガクッとそのままベッドに雪崩れ込む。
「これで多分その女の子が来るまではもつはずだよ」
「ありがとうございます。助かりました……」
リヒトの突然の奇行にエーファは自身の目を疑った。信じ難いものであったから。それこそ何者かに操られているかのようであり、そこにリヒトの意思などないかのようだった。




