気持ちを新たに
保険医の退室した部屋は重い空気に包まれていた。
「えっと、リヒトは僕と一緒に夕食を食べているって君に説明していたのかな?」
「はい……。夕食はメア様の分を作るついでに食べていると言っていたので、一緒に食べていると私は理解していたのです」
「確かに味見でつまむくらいはしていたけれど、一緒に食べたのは最初の数回だけだよ。その後、食べないのか聞いた時には大丈夫だと言っていたから、食堂で食べているのかと僕は思っていたんだ」
「ということはやはり……」
「うん、リヒトは夕食を抜いていたってことになるね」
エーファの顔が青くなる。体調が悪いことには気づいていたものの、それが精神的なものではなく食事が起因しているとは思っていなかった。食事なら自分が手を差し伸べることもできたはず。後悔が押し寄せる。
「彼に聞いてみるのが一番だと思うよ」
「そうですね……。少しお時間をいただいても? お父様に相談してみます」
「構わないよ。僕も最後まで事の次第を見届けてもいいかな?」
「はい。メア様には感謝しています。ありがとうございました」
「大丈夫だよ。僕は当たり前のことをしただけだから」
「それでも他の誰かなら放置したかもしれないですから」
メアは否定することもできない。実際にメア自身が動くまで周りは遠巻きに彼を見ていただけだった。自分がそばにいたから何もしなかったわけではあるまい。彼らはリヒトだからと手を差し伸べることをやめたのだ。
「一人にするべきではなかったのに……」
エーファの悲痛な呟きにメアは否定をする。
「確かに今回はリヒトが一人だったからって思うのも無理はないかもだけれど、僕はそうは思わないよ。そもそも彼は僕たちと同じ人なのに闇属性だと言うだけで忌み嫌われている。それこそがおかしいんだよ。彼だって一人の人間。嫌われる道理なんてものはない」
その思いはメアの本心だった。
リヒトの置かれている状況をどうにかしたいけれど、どうにもできない。だから、彼は事あるごとにリヒトに話しかけ、解決策を探っていた。どうすればリヒトが我慢することなく、自由を謳歌できるのか。専らそればかりを念頭に置いていた。
「僕たちが為すべきことはそうじゃない。僕たちは彼を一人にしないのではなくて、彼を一人でも安心して好きなことのできる環境にする。僕が本来するべきことなんだけど、僕自身どうすればいいのかわからなくてね」
心の底から出た思いはそれを聞く相手にも強く突き刺さる。
エーファは自分が間違っていたことを痛感する。メアの言う通りだと、リヒトを守ろうとしていたけれど、それは果たしてリヒトの為であったのか。リヒトの自由を奪っていたのではないかと。
「メア様、ありがとうございます。おかげで自分の為すべきことがわかりました」
希望の宿った瞳でそう宣言をしたエーファの眼にはもう狼狽していた気配は全くない。ただあるのは、リヒトの為に本当になすべきことを最大限にやり切るという気概だけである。




