四面楚歌と限界
代わり映えのない日々を過ごしていた。
話す相手はもっぱらエーファ様。ハイドさんとリチャード先輩はあの日からよくいるところを見るに上手くいっているようなので、話しかけるなんて無粋なことはしなかった。研究棟にも行かないので、ジキルさんとも会わない。
俺もわかっていた。そういうのは言い訳でしかなく、話してくれていた人たちが態度を急変させるのを恐れていただけだと。
エーファ様の隣にいる間は何も耳に入らない。だが、それが寮内や別行動時は違う。あからさまな誹謗中傷や嫌な視線に刺される。エーファ様と一緒にいるとエーファ様まで遠巻きにされてしまう。俺のせいでエーファ様に友人ができないのは悲しかった。エーファ様の恩情は有難いが、義務として背負わせているのではないかと考えるようになってしまった。
そこからは負の連鎖だった。
表に感情が出ないのを、何も言ってこないことをいいことに、誹謗中傷は止まない。エスカレートしているきらいまである。
そして俺はゲームのリヒトの気持ちがやっとわかった。
何故、自分は否定されなければならないのか。
どうしてそんな奴らに同じ苦しみを与えてはいけないのか。
それが頭に浮かんでは消えていく。こういう気持ちでリヒトは悪役に闇堕ちしていったのだろう。
「……、ト。……リヒト!」
「あ、エーファ様。何でしょうか」
「もう。話聞いてないでしょう」
「すみません。考え事してました」
「最近、元気ないわよね。本当に大丈夫なの?」
エーファ様のこの質問も俺が正直に答えない限り、意味がないのに毎日のように問うてくれる。いつか俺が相談したいと思ったときにすぐに手を差し出せるように。
だが、それさえも煩わしく思えてくる。とうとう無理かもしれない
「ええ、大丈夫ですよ。そういえば、ペンのインクが無くなってきたなって思っていただけなので」
「そうなの。じゃあ、買いに行く?」
「そうですね。買ってくるのでエーファ様は先に行っていてください」
「付いて行くわよ?」
過保護さに笑えてくる。
「大丈夫ですって。それに次の授業も一般棟でしょう。面倒でしょうし、俺一人でさっさと買ってきますよ」
「そう? なら待っているわ。あ、ついでにお菓子を買ってきてくれない? ドライフルーツが食べたくなっちゃった」
「了解です。オレンジですよね、エーファ様の好きなやつ」
「そうそう。覚えていてくれたのね。じゃあ、行ってらっしゃい」
エーファ様は頭がいい。俺にお使いをかすことで早く戻ってこようという心理にさせている。
俺もこの生き地獄に長くいたくはない。なるべく人がいないようにと思っても、大通りから枝分かれしたように各棟が配置されているので、そうもいかない。
早足で購買に向かい、買うものもさっさととって会計する。
購買の店員も噂が耳に入っているようであまり歓迎されていないのがすぐにわかる。仕事だからそぞろにするようなことはないが。
「あ、リヒトも何か購買に用があったの?」
購買から出てすぐ、メア様に声をかけられる。俺に話しかけるのはもうエーファ様とメア様しかいなかった。
こういうタイプが一番何を考えているかわからない。警戒しないわけがない。それも日に日に強くなっていっている。強くなることはあっても弱まることはない。
「そうだ」
早く逃れようと返事とともに歩き出す。
「ちょっ。待って。何でそう避けるのさ」
「避けてなどいない。エーファ様を待たせているだけだ」
「じゃあ、一緒に戻ってもいいよね?」
否定はできない。避けていないと言ってしまったから。
メア様と一緒にいるとより一層、周りの声が聞こえてくる。
[メア様が話しかけているのにあの面はなんだ]
[優しいメア様に比べてあいつは不遜な態度で]
[それでも声をかけていて、メア様はお優しい]
全部メア様と俺を比較するから出てくる言葉。一人きりだったら闇属性に関することと無表情なことくらいしか言及されないのに、メア様が隣にいるとそれがさらに悪い方に増えていく。
「何を買っていたの?」
「ペンとドライフルーツだ」
「ドライフルーツ好きなの?」
「エーファ様のお使いだ」
許可した覚えはないが無言を許諾と捉えたようだ。遺憾である。
無視する方がより批判されるので、答えているだけで今すぐ走って立ち去りたかった。
答えても答えても周りの視線は消えない。その上、否定的な声はどんどんあがる。
五月蠅くて煩わしくて鬱陶しくて。
「……もう、煩い」
俺は意識を手放す形で限界を迎えた。
「え、何か言った? ……! リヒト!」




