勘と努力
「リヒト、おはよう」
「おはようございます」
待ち合わせ場所でエーファ様と落ち合う。朝食は紅茶だけ。自分で入れた紅茶を飲んできたし、お腹が空けば移動途中に購買にでもよればいいから。それよりも人に会いたくなかった。
「……ちゃんと朝食は食べたの?」
「えぇ、朝食はとりました」
「それにしてはなんだか……本調子ではなさそうね。何を食べたの?」
勘が鋭い。たった一日、朝食をきちんと取らなかっただけなのに。
「まさか朝食が紅茶だけなんて言わないわよね?」
笑顔ではあるが圧が凄い。
俺が毎朝紅茶を飲む習慣がついているのをエーファ様は知っている。エーファ様に入れる紅茶の味見をするからだ。何も食べなかったのなら、せめて紅茶くらいは飲んでいるだろうという予測なのだろうが、当たっていることが悩ましい。
「その顔……。本当に紅茶だけで済ませてきたのね。じゃあ、購買で何か買いましょう。ほら、行くわよ」
ほんの一瞬の間で判断された。お互いに表情の読み取りができるようになったのは嬉しいが、こういう時は困る。
否応なしにエーファ様はどんどん進んでいく。俺が付いて行くしかないことを知っていてやっている。仕方がない。食べるつもりはなかったけれど、エーファ様の指示なら、付いて行こう。
食堂の隣にある購買は前世でよくお世話になったコンビニと似ている。軽食だけでなく、文具などの必需品もそろうところや朝早く夜遅くまで開いているところが。
着いて早々にメニューも支払いもエーファ様によって完了された。出すと言ったのに、聞き入れてもらえなかった。
「急がないと授業が始まるまでに食べられないでしょう。ほら早く」
急かされる。一般棟と購買はそこまで離れていないとはいえ、それは地図上の話。実際は歩いて10分はかかる。今は7:40頃だから、一時間目開始の8:00には結構ギリギリ。
食べ歩きは行儀が悪いのでできない。
「おはようございます」
エーファ様はきちんと挨拶をしている。俺はする気はない。
席に着くと買ってきたものを机に並べられ、早く食べるように促される。
完食できたのは7:57くらいのこと。やっぱりギリギリだった。
「明日からはちゃんと食べるのよ」
「……わかりました」
明日からも朝食を抜けば、エーファ様に見抜かれるだろう。でも、わざわざ食堂に行きたくはない。それならば、購買で買うという選択肢しかないが、エーファ様との待ち合わせの前しか買う時間はない。走っている時間はさすがに早すぎて閉まっているから。執事として給金はもらっているので、お金には困らないとしても毎朝は面倒だ。しかし、これもエーファ様の気を煩わせないため、と自分に言い聞かせた。




