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神経衰弱

「……リヒト」


 ノックの音と自分を呼ぶ声で目が覚める。眠気眼をこすりつつ、髪を手櫛で整えると応答するべく扉を開ける。


「あ、もしかして寝てたかな?」

「いや、気にするな。で?」


 何故メア様がこんな時間、21時前くらいか、に尋ねてくるんだ、と疑問に思いつつ用件を促す。


「ご飯を作ってほしかったんだけど、寝てたなら大丈夫だよ」

「あぁ、それか。俺も夕餉、食い損ねたからついでな」

「そうなの? ありがとう。本当に助かる」


 約束は約束なので了承する。一階のキッチンに向かう。


「何かリクエストはあるか?」

「さっぱりしたものがいいな。それ以外はお任せする」


 さっぱりしたもの。スープや香草で焼いた肉とかか。迷うな。

 キッチンに立って、食材を見てからやっと決まった。スープだ。肉も野菜もごった煮の。簡単だし栄養も偏りがない。そのうえ胃に優しい。

 そうと決まれば話は早い。鍋に水を注ぎ、火をつける。切った肉と野菜をどんどん入れていく。煮えにくいものから入れたから、あと少し煮立たせれば完成だろう。

 味見してみると美味しかったのでひとまず安心だ。

 ふと思ったが、一国の王子がこんな出自の分からないような人の作ったものを上げてもいいのだろうか。警戒心が薄いのか、それともまた俺を試そうとしているのか。まだ疑いは晴れていないので、最大限警戒しておくに越したことはないと思う。

 もし本当に試すなり監視するなりでの対応なら、俺は___。__俺に何ができる。エーファ様の庇護下にあるから今の生活が遅れているだけで、俺からそれを抜いたら何も残らない。


「ほら、できたぞ」

「ありがとう。凄く手際が良かったね。それに美味しそう」


 無邪気そうに笑いかけてくるメア様の本心が知りたい。ただ単に本当に食事を作ってもらうために声をかけたのなら、それでいい。執事というのはそう言うものだと理解しているから。だが、それに他の何か不純な動機があるのなら、俺は__。

 俺ってここまで精神弱かったっけ。

 表情が多彩じゃなくて本当に良かった。多分もう笑えなくなってきた。笑えたとしても引きつっていくと思う。顔に出ないから、エーファ様に心配をかけなくて済む。


「美味しい……。見た感じ簡単にできるのかな、このスープ?」

「え、あぁ。煮込めばいいだけだからな」

「そうなんだ。僕でも作れるかな……?」

「そうじゃないか」


 一緒に食べてはいるが、さっさと完食して部屋に帰りたい。この人の隣は居心地が悪い。


「そっか。じゃあ__」

「すまない。俺はもう部屋に戻る」


 急いで最後の一口をかきこむと同時に立ち上がる。何かを言おうとしていたが知ったことではない。


「あ。急いでたみたいなのにごめんね。本当に助かったよ。ありがとう」

「構わない」


 さっさと食器を洗い、退散する。

 部屋でもすることはない。鉢合わせないように時間を見て風呂に入ったら、すぐに寝た。

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