テスト開始
この世界でも朝のHLというものは存在するようだ。今日やることの説明をされた。
「今日は各々の基礎能力を診断する。まずは基礎学力。ここで学ぶ学問の基礎から一般教養まで多岐にわたる。これを一時間目は解いてもらう。わからないところは白紙でいい。割り切って解くように」
そう言ってハイネ先生は各個人にテスト問題と解答用紙を配っていく。配りい終えるころには一時間目のチャイムが鳴り、始めの合図が出された。
俺も全力で解いていく。
エーファ様の専属執事として今までたくさんのことをしてきたのだから、内容はかなり簡単だった。基礎知識しか求められていないし、教養もきちんと身についていれば答えられるレベル。まあでも知らなければ知らないような問題ばかりだった。
一時間目のチャイムとともに終わりの合図が出される。皆、筆記用具を置き、解答用紙を集めていく。
「次の時間は実践棟で行う。教養の実技テストであるから、持ち物は特に必要ない」
ハイネ先生はそう言い残すと去っていった。知っている前提なのかどこにある棟かも教えずに。そのため皆、何処にあるかわからないようで混乱している。
俺は混乱するクラスメイトにはお構いなしに立ち上がるとエーファ様と退室する。
「あ、エーファたちはどの棟か知っているの?」
最前列に座っていたメア様に声をかけられた。
このクラスに座席表はない。各自好きなところに座れる。担任によってはあるところもあるらしいが、ハイネ先生は作らなかったようだ。だから俺の希望で最後列の一番ドアから離れている席に座っていた。
ドアは前方の一つにしかない上に、そのドアに一番近い座席にメア様は座っていたのだから、前を通るのは避けられなかったのだが、声をかけられるとは思っていなかった。
「ええ。私はわからないけれど、リヒトは把握していますわ」
「じゃあ、僕も付いて行っていいかな? 各棟までは覚えられなくて」
「構いませんわ。いいわよね、リヒト」
「ええ、勿論です」
「助かるよ。ありがとう」
メア様が面食らったような顔をかすかにしている。それもそうか、俺が敬語で話しているのを見るのは初めてか。
その顔もすぐに引き締め、笑顔を浮かべると感謝を述べて付いてきた。
さっきまで一緒にいた人とは別行動をとるらしい。そもそも同じ机に座っていなかったのを見ると、一緒にいたというよりついてきたっていうのが正しいのかもしれない。
なんにせよ俺の知ったことではない。
「エーファとリヒトはさっきのテストどうだった?」
「私は興味関心が偏っているので、わからない分野はとことんわかりませんでしたわ」
「俺は全部解けた」
「え、すごい。僕も自信はあったけど、何問か白紙で出しちゃったから、リヒトには負けてるかも」
何問かしかわからないところがなかったことに驚きを隠せない。基礎は基礎でも様々な分野のものだ。俺でもぎりぎり思い出せたものも少なくはなかった。俺とほとんど変わらないくらいの回答率ということは、俺と同じくらい多岐にわたって学んできたということだろう。王子なら当たり前なのかは知らないが、並大抵のことではないのは俺も経験したのでわかる。
「私が一番できていませんのね。悔しいですわ」
「これからですよ。エーファ様は俺の知らないこともいっぱい知っているではないですか」
「え、そうかしら。例えば?」
時々お茶目なのだ。空気を読むのもうまいし、コミュニケーション能力も高い。何でもそつなくこなす上に、愛嬌もある。加えて、臨機応変さも兼ね備えている。才色兼備とは彼女を指す言葉だと俺は思っている。だから時折見せる茶目っ気も推せる。
「例えばですか? 挙げるとしたら、花の種類や花言葉。それに魔法についてはエーファ様に教わりましたから、俺より詳しいですよね」
「そう言われてみればそうね。ありがとう。でも、すぐにその方面の知識も抜かれてしまうでしょうね」
「いえ、それはないと思いますよ」
「え、リヒト?」
エーファ様の言葉を否定した、俺のいつもと違う雰囲気を感じ取ったのか彼女は不思議そうに名前を呼ぶ。
仕方のないことだ。俺は魔法を極めない。極めたくないから、エーファ様には一生勝てないだろう。その方が俺も安心できる。
その時丁度、曲がらなければならなかったので、その声掛けには答えない。
「その角を左に曲がると見えてきますよ」
「あ、あれが実践棟かしら?」
「ええ、そうです。研究棟の向かいですね」
「意外と簡単に着いたね。案内、感謝するよ。ありがとう」
お構いなくの意味を込めて一礼する。不遜な態度で返すのも本意ではないので。
前にエーファ様が教室の位置が覚えられるか不安がっていたが、この学校の各棟の場所は、中央を通る大通りから枝分かれするようにあるので意外と簡単なのだ。
ノアさん曰く大変なのは教室の名前で指示されたときだそうなので、まだまだ序の口なのだが。
「予想より早かったか……。メア君とエーファ君とリヒト君で間違いないな」
「はい。ハイネ先生」
棟の前ではすでにハイネ先生が待っていた。
そして俺たちが到着した後、五分と経たずにクラスメイトもちらほら到着し始めた。後ろをついてくる気配がしたから、そろそろ来るとは思っていた。
「これで全員揃ったか。では行くぞ」
棟に入り、階段を上がっていく。三階に到着すると廊下を進み始めた。奥にある一際大きな教室に入る。
「ここでは教養について実践方式で試験を行う。これもどのレベルかを判断するものであるため、わからないものはきちんと進言しなさい」
奥にあるピアノに一人の女性が腰かけている。
教養についての実践テストとは何ぞや、と思ったが、なるほど、ダンスか。
ダンスは学校内でのパーティや将来参加する人も多いだろう社交界での必須教養だ。貴族には知っているものも多いだろうが、少なからずいる庶民や従者である学生は知らないものも多いだろう。だからこの学校ではチーム分けをしてする傾向にある、と聞いている。初心者と中級者と上級者の三種類ほどに。
「まずは各自ペアを作って、分かれて並びなさい。踊れない者は端に」
男女二人ペアになり、ひとペアずつ踊っていく。一回約3分。皆や先生に見られつつ踊り切るのは容易なことではない。身に着けているとはいえ、俺も少し緊張してきた。
「踊りを披露した経験のあるものは挙手」
ちらほら手が上がる。俺もエーファ様もその一人だ。エーファ様の誕生会で一緒に踊らせていただいた事があるので、一緒に練習をしたり両者ともに披露したりした。
ペアの両方ともが手を挙げているものは少ないように見える。というか俺たちだけでは。
「今年も少ないか……。ではエーファ君とリヒト君。お手本を頼みたい」
「はい。わかりました」
うん。そうだよね。そうだと思ったけど、お手本なんて嫌だよね。でも、エーファ様は了承した。踊らざるを得ない。
エーファ様に手を指しだす。ここからテストは始まっているのだろう。世知辛い。男からお誘いしなければならないなんて。女性からの申し出でも手を差し出すのは男な辺り、レディファーストがこの国にもあるんだろうね。
一曲を踊り終え、拍手される中お辞儀をして端にはける。
「ありがとう。お手本に相応しいものだった。では次はそこの二人」
次々と指名していく。
皆一様に踊り終えた頃、授業終了の鐘も鳴る。
「では3時間目は魔法演習のテストを行う。演習場に集合しなさい。その際、入学時に支給した運動用の服に着替えてくること。着替えは必ず更衣所で済ませること。貴重品の管理はアジ子で行うこと。……では、演習場にて」




