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茶番

 翌日、いつも通り早く目が覚める。エーファ様を起こすのも俺の役目だったから、俺の朝は早い。エーファ様はいつもご自分で起きられていたから、極稀にしか俺の出番はなかったのだが、習慣として染みついている。

 朝食の時間も決められていて、6時から7時の間。一時間目が8時に始まるので、食べる時間も含めると妥当なとこだろう。

現時刻は5時前。一時間以上時間はある。

 暇を持て余し俺は久々にランニングをすることにした。卒業生のノアさん曰く、そういうのもしていいらしい。俺のここに関する知識はノアさんとアークさんを基本として、レオン様にも教えてもらったものがほとんどだ。貴重な情報で有難い。

 俺は寝ているであろう皆を起こさないように静かに行動する。


「ちょっと寒かったか?」


 走ることを前提にした服装だったので、薄着なのだ。5月とはいえ、朝は寒い。羽織れるものを着てこなかったことを後悔した。

 今回は何事もなく30分間走り終え、昨日色々あって入り忘れていたお風呂にも入る。

 色んな事の疲れが癒された。お腹も適度に減ってきたし、丁度いい。ということであがると一度荷物を置きに部屋に戻り、開いて間もない食堂に入る。

 今度こそは絡まれませんように。


「あ、いた!」


 一秒でフラグ回収した。食堂の中には人は一切いない。まだ6時ぴったりだから。それを見越して今の時間帯に来たのに、意味がなかった。


「何だ? ハイド。まさか俺を待っていたなんて言うつもりか?」

「何? 待ってちゃ悪いの? ほら、行くよ。っていうかリヒトってこんなに朝早いんだ」

「……執事だからな」

「ふーん、そういうものなんだ」


 腕をつかまれた俺は否応なしに引っ張られた。


「……サンドイッチで」

「じゃあ、僕も同じやつでお願いします!」


 なんだか知らないけれど、懐かれた。今までは猫みたいだったのに、今はその片鱗すらない。犬っぽい。しっぽ振ってそう。

 ゲームでも描かれていたけれど、ハイドさんは隠れイケメンっていうやつらしい。イケメンというよりかは可愛さが目立つが。でも、その無造作にまとめられた髪をもっとどうにかしたら、綺麗な顔立ちはしてると思う。多分。


「何? 僕の顔に何かついてる?」

「……何の用だ」

「用がなきゃ会っちゃいけないの?」


 頬を膨らませて文句を言う。そのあざとさをリチャード先輩に見せればイチコロなのではと思うが、今が今なので黙っておく。


「俺は一人の方が楽だ」

「だって、相談に乗れるのお前だけだもん」

「……何が訊きたい」

「リックともっと仲良くなりたいのっ……」


 それを俺に聞くのか。俺が恋愛経験豊富そうに見えますかね。見えないよな。何故それを俺に聞く。まともな答えは得られても、ちゃんとした答えは与えられないのに。


「それは付き合いたいという意味か」

「ばっばか! 誰かが聞いていたらどうするんだ!」


 誰もいないのをわざわざ確認して言っているのだ。慌てた方がバレバレだろうに。

 顔が真っ赤だ。ツンデレなのか。

 ヤンデレっていう人らは愛の押し付けが皆総じて強かったと記憶していたのだが、今回は違うようだ。ヤンデレ難しい。しかし、幸運なことに件の幼馴染にヤンデレな推しはいた。他作品だけど。なんか、知らんけどヤンデレにはたくさん種類がいるらしい。

 幼馴染が好きだったのは、執着×溺愛×狡猾だって言ってたのは覚えてる。だって俺それ聞いて引いたもん。熱く語ってたね。熱量半端なくて何度も言うから覚えちゃったくらいだし。

【好きな人にだけ見せる異常な執着。裏から孤立させたり、かなりの頻度で“偶然”会ったりする狡猾さ。でも好きだからめちゃくちゃ溺愛してる、そんなヤンデレは最高。愛しすぎておかしいのも好き。無理矢理も好き】だそうです。ヤバいね。

 まあ、そういうわけで俺は一応、まだこいつが今のところは常識の範囲内でこじらせているというのはわかる。まだまだヤンデレでも序の口だ。うん、あいつならそういう。

 このまま拗らせることなく両想いになればいいのだろうけど、そのためにはリチャード先輩に好かれなければいけない。結構、無理ゲーだと思うのは俺だけなのかな。


「それなら好きになってもらえるようにしたら」

「どんな風にしたら好きになってもらえる?」

「……今度、リチャードに好きな人がいるか聞いておくから、勘弁してくれ」


 知らんと言いたかったが、我慢した。俺に相談することこそお門違いなんだよ。無駄に期待するな。


「それ、僕、他の人の名前言われたら死ぬやつじゃん。そうなるくらいならいっそ……」


 ぶつぶつと物騒なことを言っている。ちらほら利用者も増えてきたんだから、そんなこと言ってないでリチャード先輩でも探して、一緒に食べればいいのに。そしてあわよくばそのままこっちに戻ってくんな。


「珍しい組み合わせだね?」

「ひゃっ! り、リック! おはよう」

「おはよ、ハイド」


 他の友人と膳を持って歩いていたリチャード先輩と俺は目が合った。友人らに断りを入れると素早く近き、ハイドさんの隣に腰を下ろした。

 俺からはすべて見えていたのだが、ハイドさんからしてみれば背後での出来事。でも、あの驚き方はこっちがびっくり。リチャード先輩だって軽く目を見開いていた。


「二人で何話してるの? というかそんなに仲良かったっけ?」

「えっと……。世間話……とか?」


 疑問に疑問で返すなよ。より怪しくなるじゃないか。もう誤解されるのはあんたでこりごりなんだから、嘘をつくにしてももっとましな嘘をついてほしい。


「俺が一番乗りでハイドが二番目だったから、ついでに一緒に座ってただけだ」

「そうなんだ。ハイドは今日、何の授業があるの?」

「え、あぁ、国史、魔法応用学、魔法史、魔法演習、戦闘実践だ。確か」

「僕は1・4時間目が同じかな……。じゃあ、お昼一緒に食べる?」


 俺の存在忘れられてる。もしかしてリチャード先輩も隠れヤンデレ的な性格してるのか。

 でも幼馴染に見せられたことはある。自分の好きな子の健気な姿が見たいからって、好意に気付かないふりしてるヤンデレ。

 これ、俺必要ないのでは。

 そう思ったし、食べ終わってもいたので退散することにした。それになんだかリチャード先輩の視線が笑っているのに怖い。


「俺は役目を果たしたからな」

「え、どういうこと?」

「先に失礼する」


 一応、俺の役目はもうないということを暗に伝える。これでハイドさんが気づくとは思えないが、リチャード先輩は察してくれるだろう。

 末永くお幸せに。

私はそういうヤンデレが好きです。おすすめがあれば教えてほしくらい……。

因みにハイドよりはリチャードみたいなヤンデレが好き。。


ヤンデレなカップルが作りたかった、という個人的な趣味ですみません。

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