焦心苦慮
メア様が鞄を部屋に置くのを待つ。
エプロンなどは食堂とは別にある生徒用のキッチンに常備されているので準備しなくていい。
「待たせてごめんね」
「構わん」
一階に着くまで終始無言だった。メア様はいつもみたく笑顔であるので、無理に話さずとも好いだろうと勝手に判断した。
キッチンで食材を見て、何を作るかを考える。意外とこの時間が好きだったりする。
「何を作るの? 僕も手伝うよ?」
「いや、大丈夫だ」
何にするか。紅茶を入れたいので、紅茶に合うご飯。
「……コース料理みたいのは作れないがいいか?」
「もちろん。凝ったものでなくていいよ」
それならば、簡単かつ時間もそうかからないものにしよう。
「サンドイッチだな。何か好きな具はあるか?」
「それなら、僕はレタスとチーズが好きかな。後はお肉も好きだね」
「了解した」
「あ、もし満腹じゃないなら一緒に食べない? 一人の食事は味気ないから」
「構わない」
サンドイッチ自体はすぐにできた。なんせ出来上がっているパンにちぎったレタスとちーす、焼いて味付けした肉をはさむだけ。誰でもできる。俺が品暮れもよかったのではとさえ思うも、考えないことにした。
「あ、できたんだね。助かったよ、ありがとう」
「これくらい雑作もないことだ」
部屋への食糧の持ち込みは部屋の清潔を保つためにもタブーだ。禁止されてはいないが、暗黙の了解としてあると事前に教わった。だから、それらのサンドイッチはキチンに併設されているテーブルで食べることになった。
「あ、美味しい……。お肉の味付け、僕好みだ」
「偶然だ」
「そうだね。でも美味しいよ。それに紅茶も王宮にいたメイドらと遜色ないくらい美味しい。茶葉の美味しさを引き立ててるって感じだね」
褒められるのは悪くない。俺は茶葉に合わせて蒸らす時間や入れる温度を変えているので、紅茶を誉められるのは素直に嬉しい。
俺も食べながら自画自賛をしたくなる旨さだと思っていた。俺のしたことは肉を焼いて、材料を挟んだだけなのだが。
「とても美味しかったよ」
「口にあったならそれでいい」
食べ終わった食器を下げるついでに立っていた。俺とメア様の身長はそこまで変わらないと思うが、俺は立って、メア様は座っているので必然的に俺の視線が高くなる。そのため自然と上目遣いで見上げられている。
「それで……あの、お願いがあるんだけど」
メア様は顔がいい。正統派イケメンというのか、サラサラの紫水晶の髪にアクアマリンの瞳。綺麗さと儚さがあるとゲームでは謳われていた。
ゲームでの紹介同様にこの世界では宝石に例えて色を表現することが多々あるので、それに従っているだけだ。宝石に関しては俺も詳しくはないが、ここでは一般教養として宝石について学ぶ機会があったので、そこそこ詳しいくらいだ。
で、そのイケメン王子が上目遣いで自身の顔面の良さを最大限に発揮しているのだ。なんだかグッとくるものがある。綺麗さは男女関係ないのだなと、柄にもなく考えてしまう。
「……何だ?」
これまでの思考を悟られないように、努めて冷静に返した。努力も何もこの口はそんなことで動揺しないが。
「……あの、また僕がご飯を作ってって言ったら作ってくれるかな?」
「そんなことか。声をかけてくれれば、基本的に作れるだろう」
「本当に? ありがとう! 僕、生徒会とかにも入らなきゃいけなくなるだろうから、夕食に間に合わなくなることが不安だったけど、こんなに美味しい料理が食べられるのなら得した気分だよ」
すごくテンションが高い。感謝されていることは大いに伝わるが、なんだか懐かれているという言葉の方があっている気がする。そんな要素あったか。
「些細なことだ」
「それでも僕は嬉しいよ。何かお礼がしたいな……。何か希望はある? 何でもできるよ。なにせ王子だからね?」
なんだか物騒なことを言っている。ここで俺が悪いこと、何も思いつかないが、を言えば、どうするつもりなのか。メア様の行動に合理性がなくて、少し気になった。
「何でもとは?」
「僕にできる範囲なら何でもだよ」
「俺が悪いことを言わないと思っているのか?」
「悪いことはだめだって拒否するよ。そういう意味でも僕のできる範囲ならってことだけど……。もしかして何も望みはないの? 何でもいいんだよ」
なぜそこまで何かを叶えようとするのか。そこには興味がそそられる。ゲームの印象だと合理的かつ博愛みたいな優しさと厳しさを兼ね備えていた気がする。気に入られたから優しくされるのか、これがデフォルトなのか。今の彼の行動はメアらしくない。
「何故そこまでする」
「え、えっと……。君がないならいいんだ」
あ、逃げた。
一瞬、え?みたいな顔をされた気がするが、気のせいだろう。あの王子様がそんな怪訝そうな顔をするはずがないだろうし。
「うん。ごめんね。しつこく聞いてしまって」
「いや。気にしていない」
「そう。ならよかったよ。じゃあ、戻ろうか」
「そうだな」
寮部屋に戻ることになったものの、その間は二人とも黙っていた。メア様は終始にこにこしていた。俺は勿論、真顔の仏頂面。
俺の顔はゲームの主要キャラなので整ってはいるが、メアには劣る。隣にいて強く実感した。でも俺はエーファ様一筋なので、この顔がメアより劣っていようが気にも留めていない。エーファ様の隣を歩く者としてきちんとしなくてはとしか思っていないのもある。
「前途多難ってさっき言ったけど、より悪い……状況になっている気がしなくもない」
やっと戻ることができた部屋で一人、振り返る。
エーファ様との入学式は結構、色々あった。コミュ力お化けに気に入られ、ヤンデレ君には誤解され、どこぞの誰かさんを好きだと発言し、王子様には夕食を作った。
何で悪役にならないように普通にしようとしたら、こう色々と巻き込まれるのだろう。俺に何かあると、エーファ様にまで飛び火してしまうかもしれない。それだけは避けなければなるまい。主の安全を守るのが俺の役目。
今日一日の出来事を反芻しながら、床に就いた。




